ラチェットハンドルの正しいメンテナンス方法を、構造面から理解しておこう
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ラチェットハンドルの正しいメンテナンス方法をKTC・トリー研究員に教わる。この連載で勉強済みの「ラチェットハンドルの構造」を理解していれば特に難しいことはないが、NGなやり方や日常的に気を付けたいチェックポイントはある。
ラチェットハンドルのメンテナンスで、油を付けすぎるのはNG
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「一般的なショートよりもっと短いラチェットハンドルもある」の続き。
●レポーター:イルミちゃん
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ラチェットハンドルはいろいろ勉強することが多かったけど……まだネタがあるのだろうか!?
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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生徒は余計な心配しなくていいのよ。
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今回はラチェットハンドル編の締めとして、メンテナンス方法についても解説しておきましょう。
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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メンテナンス? そんなのソケットレンチ編の最後にやればいいんじゃないの?
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おい…。生徒がカリキュラムに文句付けるな。メンテナンスが面倒なのが見え見えだし…。
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ラチェットハンドルのメンテナンスには、特有の注意点もありますので。
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ほほう…?
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この連載では「ラチェットハンドルの構造」は解説済みですが、構造を知っていれば正しいメンテナンス方法も理解がしやすくなります。
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ラチェットハンドルの構造といえば、ギア(歯車)とクロウ(ツメ)がポイントですが……
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それがメンテナンスと、どう関係しているの?
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まずは注意喚起で、NGなメンテナンス方法から触れておきます。
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ユキマちゃんはしっかり聞かないとダメよ。
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……。私はなにもしないつもりだったのだが……それはダメなのだろうか。
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やりがちなのはオイルスプレー(潤滑油)をたくさん吹き付けることです。ラチェットハンドルは、油のかけすぎは良くありません。
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錆び防止の観点からはオイルスプレーを吹くというのは、ごく普通のメンテナンスな気がしますけども。
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なにが悪いの?
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まず、油をかけすぎるとツメと歯車の引っかかりが弱くなるので、浅がかりになったり、滑る可能性があります。
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あ~。
そういうことか。 -
確かに構造を知っていると、やってはいけないメンテナンスも見えてくるね。
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ラチェットハンドルにオイルスプレーを吹く弊害は他にもあるんですが、これについては後述します。ちょっと話が長くなるので。
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何もしないほうがいいってことね! だと思ったわ!
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そうは言ってないでしょ。
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まあでも、実際のところラチェットハンドルに関しては、日常的なメンテナンスは特に必要ないんですよ。
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ほえ?
そうなんだ。 -
ただし長く使うために、普段から気をつけておくとよいポイントはあります。
ラチェットハンドルはメンテナンスというより、保管方法と点検が大切
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ラチェットハンドルについては、日常的にはそんなにメンテナンスはしなくてもいいと言いましたが……
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メンテナンスフリーってこと?
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長期的にみれば内部のギアやクロウは消耗品なので、分解整備(中の部品交換)なども可能です。とはいえ、これは頻繁にやるようなことではないです。
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つまり半永久的にメンテナンスフリーとは言えないまでも、普段は特になにもしなくていいってことね。
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毎日のように酷使するプロはさておき、一般の人が「たまに使う」位の作業頻度で、ギアやクロウの交換時期まで使い込むっていうのは、希なケースだと思います。
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なるほど。
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普段はメンテナンスというよりは、保管場所や保管方法に気をつければよいかと。
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ラチェットハンドルの保管方法とは……?
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ラチェットハンドルに限りませんが、鉄の工具は錆びさせない環境に保管するのがベストです。
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錆びさせない環境っていうと……?
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湿度が高い場所は避けましょう。
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ふむ。
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それからホコリが直接かからないようにする。これについては「工具箱に入れておく」で十分ですが。
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ホコリも付かないほうがいいんだね。意外と繊細だな。
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もちろんフタが閉まっているので、いきなりラチェット機構内部にホコリが溜まることはないんですが、徐々に異物などが内部に入る可能性があります。ホコリやゴミの多い環境には、そもそも置かないほうがいいですね。
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出しっぱなしは止めておきましょう。
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というわけで普通に工具箱に入れて保管しておけば、特に日常的なメンテナンスは必要ないです。
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意外とカンタンそうで良かった。
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ただし、さきほど言ったようにラチェット機構のギア(歯車)などは消耗品です。使用頻度にもよりますが摩耗などで精度が落ちてきて、いつかは壊れます。
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そうなったら分解整備が必要なんですね。
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その意味ではメンテナンスというよりも「歯車やツメが正常に動作しているかどうか」を、常に意識しておくことが大切です。
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どう気をつけたらいいの?
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使う前に手で少し回してみるんです。「ギアが噛み込んでいるか」「へんなところで引っかかりがないか」などは、それでチェックできます。
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なるほど。カチカチやってみればいいのね。
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稼働するラチェットハンドルはもちろんですが、ソケットもチェックしましょう。小さなクラックが入っているのに気付かずに思い切り力をかけたりすれば、いきなり壊れてケガにもつながります。
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ソケットのほうが弱い、って習ったもんね。
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ですので作業の前に、ぱっとソケットの外観だけでも見ておくのは、とても大切なことです。
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ソケットにヒビなーし!
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メンテナンスというより、ラチェットハンドルとソケットの運行前点検のほうが重要と言えそうです。
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そしてこういった点検時に、ラチェットハンドルの動きが鈍いとか、何か引っかかりがあるなと感じたときには「応急処置としてオイルスプレーを吹く」のはいいんですけども……。
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オイルスプレーに関しては、メンテナンスというよりは、応急処置的な感じなんですね。
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ただし、それも「応急処置」でしかありません。ラチェットハンドルにオイルスプレーを吹くことには、弊害があるので…。
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そういえばオイルスプレーの弊害がほかにもあるって言ってたけど、なんのこと……?
写真はカットモデル。ラチェットハンドルの分解整備については注意点もあるので、この連載でいずれ詳しく解説する予定。
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生体質。
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