別メーカーのソケットとラチェットを組み合わせても(相性)問題はないの?
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ソケットとラチェットハンドルは、別メーカーで組み合わせられるのか? サイズが合っていれば付くので、問題なく使えると思っている人は多いが、サイズの他に互換性に関わる重要なポイントがあることはあまり知られていない。いわゆる相性問題は存在する。
異なるメーカーのソケットとラチェットハンドルは付けられるが…
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「インチサイズの工具の品番の読み方」の続きです。
●レポーター:イルミちゃん
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さて、ここまではソケットやラチェットハンドルの差込角の呼び方・読み方について勉強してきました。
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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「1/2インチ」も「12.7ミリ」も同じである、ということがよく分かったわ。
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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ここから今回の話題。ある程度の知識を持った人は「A社の1/2インチのラチェットハンドルに、B社の12.7ミリのソケットでもはまる」というふうに考えると思います。
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む?
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そういえば、メーカー違いのソケットレンチとラチェットハンドルって、はまるのかな。
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メーカーによって言い方が違うだけでサイズが同じなら、はまるはずよね
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はい。差込角のサイズが合っていれば、メーカーが異なっていてもはまります。しかし「はまる」=「問題なく使える」と言ってしまうと、そこには語弊もありまして……
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と言うと?
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差込角の四角部分だけを見れば、それぞれ規格に沿って作られているから、確かに互換性があります。
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しかし、ボールとミゾの関係は工具メーカーによって違うので、嵌合性(かんごうせい ※ハマり具合のこと)によってはトラブルが起こる可能性があります。
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そうなんだ! いわゆる相性問題がある、ということか。
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このことを知っている人は少ないと思います。一般的には「互換性がある」と考えている人がほとんどかと。
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なにげに重要なポイントに突入してきました。
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ねぇねぇ、ボールとミゾってなあに?
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そこを理解してもらうために、「プッシュキャンセル」と「ユニオン機構」から説明していきましょう。
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???
プッシュキャンセル(プッシュリリース)と、ユニオン機構の違い
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まずは、一般的なラチェットハンドルに備わっているプッシュキャンセル(プッシュリリース)の解説から。
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なあに、ソレ?
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ソケットをラチェットハンドルに差し込むときって、けっこう力がいるんですよね。
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ソケットを抜くときも同じですね。
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その作業をラクに行うために、ボタンを押したらすっと外れる機構が生まれました。
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それがプッシュボタンか。
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ソケットを下に向けた状態でボタンを押したら自重で外れるほどなので、作業がとてもラクチンになり、瞬く間に普及して業界標準ともいえる機能になりました。
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KTCのラチェットハンドルにも、ボタン(↓)が付いていますね。
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これもそういう機能なんだ。
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そう思われる方が多いですが、KTCのラチェットハンドルのボタンは発想がまったく逆なんですよ。
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……逆?
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と言いますと?
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KTCの場合は「ソケットとラチェットハンドルを一度接続したら、ボタンを押さない限り離れないようにする」のが目的なんです。
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ええっと……
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けっきょく外すときに押すんだから、同じじゃないの?
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そこだけを見るとそうですが、一般的な「外すのがラクになるボタン」は、ボタンを押さなくても外すことはできます。KTCの場合は、ボタンを押さない限りソケットが外れないのです。
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あー、そういうことか。
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つまり、ロック機構なんですね。
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そうです。ロックを解除するために、プッシュボタンを押します。外しやすくなるという点は、KTCとしてはサブ的なメリットです。
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確かにプッシュキャンセル(プッシュリリース)とは、似て非なるモノね。
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KTCのラチェットハンドルは、ソケットを付けるときにもボタンを押さないとはまりません。
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単にソケットを押し込むだけでは入らないんだ。
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ボタンを押さないかぎりソケットの脱着できない。これがユニオン機構です。
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KTCがそういう機構を採用する理由は、もう聞かずとも分かる気がします。
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安全性の問題ね。
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そうです。「作業中にソケットとラチェットハンドルが外れる」のは、わりと起こりがちな話ですので。
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そんなにカンタンに取れたら困るけど…。
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ソケット側がねじと噛み込んでしまった状況で、ラチェットを動かそうとするとスポンと抜けたりとか……わりとありがちで、経験がある人も多いと思いますよ。
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危ないですねぇ。
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ケガをする可能性もあるし、ソケットも落下するし、いろいろ問題があります。
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脱着可能なソケットレンチのデメリットと言えるわね。
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接続して使う工具というのは、いちど付けたら外れないほうが安全。そういう考えで、KTCではユニオン機構を採用しているのです。
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なんでユニオンっていうの?
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「ユニオン」とは、一体化するという意味ですね。
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なるほど!
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同じプッシュボタン付きでも、プッシュキャンセル(プッシュリリース)と、ユニオン機構では違うんです。
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そこまでは理解できた。
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そして冒頭の、互換性の話に戻るわけです。
ユニオン機構というのはKTC独自の名称であり、同じようなロック機構を採用しているメーカーは他にもある。
プッシュボタン付きのラチェットハンドルは、ソケットも同メーカーで統一するのが無難
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ユニオン機構の場合、ラチェットハンドル側のボールと、ソケット側のミゾが、キレイに合わさっていないとロックが実現できません。
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ふむ。
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ところがボールとミゾの関係が、メーカーによって微妙に違っていたりするのです。
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ということは、KTCのラチェットハンドルに、他メーカーのソケットをはめると……
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組み合わせによっては、無理矢理はめこむと、噛み込んで抜けなくなるかもしれません。
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ソケットが取れなくなる!?
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逆にロックがかからずに、スポンと抜けてしまうケースもあります。
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サイズが合っていても、互換性があるとは言えませんね。
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相性によってはリスクもある。
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異なるメーカーのものを組み合わせても、差込角のサイズはほぼ共通なんで、入ることは入ります。ただ、嵌合時のトラブルも起こりうる。
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特にKTCのような構造を採用しているラチェットハンドルは、気をつけたほうがいいってことね。
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そうですね。基本的にボタン付きのラチェットハンドルは、注意したほうがいいですね。
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プッシュボタンが付いていないラチェットハンドルならいいの?
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ボタン付きでないものは、組み合わせても基本的には問題はありません。単純にボールをバネの力で押し出してソケットを留めているだけなので。
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構造のシンプルさゆえのメリットもあるわけか。
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まあ、今回の話を知った上で、これからソケットとラチェットハンドルを買おうという人は、同一メーカーで揃えるのが無難でしょうが……。
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ただ、そうはいってもおサイフ事情もあるからね。
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ふむ。
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そうですね。DIYユーザーであれば、よく使うサイズだけイイモノを選んで、あまり使わないサイズのソケットは安いモノにしておく、といった揃え方をする人もいるかと思います。
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……でもその方法だと、別メーカーのラチェットハンドルとソケットを組み合わせることにはなる。
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レアケースではあるとは思いますが、トラブルになる可能性もゼロではない。その点は知っておいてほしいです。
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プッシュボタン付きのラチェットハンドルは、ユニオン機構でもプッシュリリースでも、同じメーカーのソケットを組み合わせるほうが安心、と知っておきましょう。
ラチェットハンドル側の四角(ドライブ角)にはボールが付いていて、これがソケット側のミゾにはまる仕組み。
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生気質。
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