めがねレンチの選び方。長さはどれがいいのか? ショート? 標準? 超ロング?
めがねレンチの長さはいろいろがあるが、それはなぜなのか。長いめがねレンチと短いめがねレンチ、それぞれのメリット&デメリットを理解すると、「長さ」を使い分けるテクニックが身につく。
めがねレンチにいろいろな長さが用意される理由
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「めがねレンチの選び方。柄の角度は何度がいいのか?」の続き。
●レポーター:イルミちゃん
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今回は、めがねレンチの長さについて、解説しておきましょう。
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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そういえば、柄の角度の違いは理解できたけど、長さもいろいろあるのよね。
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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そうなんです。短いもの・長いもの・スタンダード(標準)と呼ばれるものなど、いろいろな長さのめがねレンチがありますよ。
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なぜ、めがねレンチにはそんなに長さに種類があるの?
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その質問に対する答えは、大きく2つあります。
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フムフム。
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ひとつ目は分かりやすい話です。奥まったところにあるねじは、工具が長くないと届かない。
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当然、長い工具が必要になる場面はありますね。
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いっぽう、標準タイプやロングタイプでは、何かに干渉して使えない状況もある。そのときには、ショートタイプが必要になります。
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ようするに作業環境に応じてチョイスできるように、長さ違いが用意されている。
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ここまでは、誰でも理解しやすい話だとは思いますが……
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もうひとつの理由は?
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意外と見落としがちなのが、力(チカラ)の話です。
長いめがねレンチは、大きなトルク(力)をかけられる
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めがねレンチに限らず、工具の柄が長くなると、ねじに対して大きなトルク(力)をかけられる。
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テコの原理ですね。
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ショートタイプとロングタイプのめがねレンチに、同じ力をかけた場合、ロングタイプのほうが発生するトルクが大きくなります。
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長いほうがパワーがあるんだ。
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工具にかける力を少なくしても、同じトルクを発生させることができる、とも言えます。
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ということは……
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つまり、作業がラクになるんですよ。
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そういうことか~。
柄が長いほうがラクできる。 -
なお、デメリットを言えば、長い工具は力をかけすぎる可能性がある。ねじに対して、オーバートルクになりやすい面もあるのです。
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ムムム。「ラクに回せる」のがメリットだけど、「力をかけすぎる可能性」はデメリット。
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まさに表裏一体。
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ショートタイプのめがねレンチでは、これとは逆に、同じトルクをかけようと思ったときに、たくさん力が必要になります。
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あー。
疲れるってことよね……。 -
あるいは必要なトルクを発生できずに、ねじを緩められなかったり、締め付け不足になる可能性もあります。
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でも、そのデメリットを逆に考えると……
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オーバートルクにはなりにくい。これは、メリットと言えます。
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……えーっと、結局、どっちの長さがいいの?
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私が言いたいのは、双方のデメリットを頭に入れておくと、正しいめがねレンチの選び方・使い方が見えてくる、ということですよ。
めがねレンチの「長さ」を使い分けるテクニック
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大きな力が必要なねじに対しては、長いめがねレンチを使うほうがいいですね。
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足回りの太いボルトとか。
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そういうねじを、短いめがねレンチで外そうとすると、ゆるめる方向に力をかけるときには危険もあります。
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危険って?
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ゆるめる方向は、ねじがゆるまなかった場合、強い力をかけますよね。
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そりゃそうね。
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しかし人間は、弱い力はコントロールしやすいけど、強い力はコントロールしにくい。全力で回すような使い方だと、万が一、工具が外れたときには手をぶつけてケガをしたり、といったことが起こりやすい。
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いきなりユルんで、勢い余ってガツンっていうのもありそうだ。
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スペースに余裕があるなら、「ねじを緩めるとき」は、長いめがねレンチを使うほうが安全です。
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なるほど。
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いっぽう、「ねじを締めるとき」は、必要なトルク次第になってきますが。
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大きな力で締め付けたいなら、長いめがねレンチを使えばいい。
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逆に、あまりトルクをかけたくない場面なら、意識的に短いめがねレンチを使うと、オーバートルクを防げる。
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めがねレンチの長さって、そうやって使い分けるんだ。
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単に「ねじに届くか届かないか」だけで選んでいるうちは、まだまだってことね。
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「どの長さのめがねレンチがベストか」は、まさにケースバイケースです。
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こういうことを考えながら、柄の長さをチョイスできるようになるといいですね。
自動車業界で需要のある、KTCの超ロングめがねレンチ
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ところで、一般的なめがねレンチは、スパナやコンビネーションよりも長いロングタイプがスタンダードとなっています。
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標準なのにロングなの?
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そうなんです。KTCの場合、この標準ロングを中心にして、ショートと超ロングがあります。
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超ロングなんてあるんですねェ。
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超長いめがねレンチ。
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超ロングのめがねレンチは、奥まった場所のねじを外すというよりも、より大きな力をかけたい用途で使われることが多いです。
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それって例えばどんなねじ?
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マフラーや足回りなど、大きめのボルトが固着しているようなシーンですね。もともと自動車業界の要望があって作ったのが、超ロングなので。
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普通のめがねレンチでは固くて回せないねじが、超ロングなら回るんだ。
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ですから超ロングめがねレンチは、自動車業界で結構需要があります。インパクトレンチのような電動工具が入らない環境で、威力を発揮します。
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いざというときに使える長さ、ってわけね。
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KTCの場合、スタンダードがもともとロングで長さがあるので、通常はそれ1本で、大体の作業はこなせるようになってはいます。
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あとは、狭い場所や、オーバートルクが恐い場面で、ショートを使えばいいんですね。
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そうです。
それが「正しいめがねレンチの選び方」と言えます。
KTCの標準的な十二角めがねレンチ、「45°×6°ロングめがねレンチ」
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生気質。
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