ソケットレンチとめがねレンチの違いと、正しい使い分け(後編)
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万能な工具はない。ソケットレンチも例外ではなく、めがねレンチを使ったほうがよい状況もある。ソケットレンチのデメリットを知ることによって、めがねレンチとの使い分けも理解できるようになる。
めがねレンチと比較した場合の、ソケットレンチのデメリット
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「ソケットレンチとめがねレンチの使い分けは、両者の違いを知ることから」の続き。
●レポーター:イルミちゃん
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ソケットとラチェットハンドルの組み合わせが最強だと思ったら、KTCのトリー研究員に水を差された話の続き……ね。
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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自称ラチェット派のユキマちゃんは、納得できないもよう……
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しかしソケットレンチを盲信するのは、正解とは言えませんので。
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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ぐぬぅ。
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今日はソケットレンチとめがねレンチの違いの、より重要なポイントを解説します。
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それはいったい……?
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ソケットレンチと比べたときのめがねレンチの優位性は、手に持つハンドル(柄)の長さが最適化されている、ということです。
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めがねレンチのほうが長い?
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単純に長いという話ではありません。口径部のサイズに合わせて「ある程度、最適化された長さになっている」のがポイントなのです。
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その辺りのことは「めがねレンチ編」で勉強しましたよね(↓)
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めがねレンチは、口径部のサイズが大きくなるほど、柄も長くなっています。
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大きいねじのほうが大きなトルクを必要とするから、ハンドルが長くなっている。
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逆に小さなねじをハンドルの長い工具で締めたら、オーバートルクになる可能性が高まる。そのため口径部のサイズが小さいめがねレンチは、短く作られています
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そういえば……その点では、ソケットレンチはどうなんだろう?
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長さが一定のラチェットハンドルに対して、いろいろなサイズのソケットを付けられるのがソケットレンチです。
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ということは……
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その組み合わせによっては、無理も出てきます。ソケットのサイズに対して、ハンドルが長すぎる場合もあれば、短すぎる場合もある。
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トルクがかかりすぎたり、不足したりする組み合わせもあるんだ。
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なんと! 言われてみれば、これはソケットレンチのデメリット!
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組み合わせ自由なのが、裏目に出るのか。
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通常の標準的なラチェットハンドルは、全長が180ミリ前後です。
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10ミリ・12ミリアタマのねじなら、このサイズで全く問題ないんですけど、実際にはもっと大きなソケットも付けられる設計になっています。
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ラチェットハンドルに付けられる最大サイズのソケットは、何ミリなんでしょう?
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定番の9.5sq(※)のラチェットハンドルの場合、適合するソケットのサイズは最大24ミリです。
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適合するソケットサイズの幅って、そんなに広いんだ。
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しかし実際には、24ミリアタマのねじを、柄の長さ180ミリの工具でゆるめようと思っても、全然ゆるまないと思います。
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ハンドルが短すぎる状態ってことね。
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……ということは、締め付けもぜんぜん力が足りていない、ということになります。
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ウーム。
実に考えさせられる話です。 -
では、24ミリのめがねレンチだったらどの位の長さがあるの?
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KTCの標準モデル(標準ロング)を例にすると「22×24」のめがねレンチで、334ミリです。
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つまり標準的なラチェットハンドルの、倍近い長さがあります。
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ぜんぜん違う!
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同じ24ミリでも、かけられる力が全然違うんですね。
✔「めがねレンチの正しい使い方」参照。
KTCの標準的なモデル「9.5sq.ラチェットハンドル」で、全長180ミリ。
※ソケットとハンドルをつなぐ差込角(さしこみかく)のサイズを示す数字。
差込角については「各サイズの読み方」も含めて、あとで詳しく勉強します。
KTCの標準的なモデル、「45°×6°ロングめがねレンチ」
ソケットレンチよりめがねレンチを使ったほうが良い場面とは?
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24ミリのソケットと標準的なラチェットハンドルの組み合わせは、「付けられる」だけの話であって、工具としてはあまり実用的ではない状態です。
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工具としてのバランスが悪い状態なんだ。
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そう考えると、ソケットレンチって、けっこうアバウトな面もあるね。
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ただ、こういう問題を補うために、ラチェットハンドルにも長さ違いのバリエーションがあります。
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そっか。ねじのサイズが大きいなら、ラチェットハンドルも長い物に交換すればいい。
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スピンナーハンドルなどを使う手もあります。
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ソケットレンチだって、ハンドルを換えれば大きいサイズのねじに対応できる。
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そうなんですが、ねじのサイズに合わせて、ソケットを付け替え、回してみたら力が足りないからハンドルも付け替えて……なんてことをやっているなら、最初からめがねレンチでやったほうが早いですよ。
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それはまさにユキマちゃんがやらかしそうな展開…。
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それは……否定できない。
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でも、めがねレンチだったら最初からそんなことで悩まずに済みます。
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そういえば、めがねレンチの柄の長さを生かして、持ち方でもパワーコントロールできることも教わったよね。
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その点を考えると、めがねレンチを使ったほうが話が早い場面も見えてくるか。
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標準的なラチェットハンドルしか持っていない場合は、ある程度以上の「大きなサイズのねじをゆるめる作業」では、めがねレンチを使ったほうがよいと思います。
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そのあたりが、両者の使い分けポイントか。
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あるいは「大きな力が必要な、ゆるめ始め」だけはめがねレンチを使って、そのあとはラチェットハンドルとソケットで早回しする。そんな使い分けもあります。
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お互いのメリットを組み合わせるような使い分けだ。
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「なんでもかんでもソケットレンチを使う」のは、正しい工具の使い方ではありません。ソケットレンチとめがねレンチを正しく使い分けてこそ、良いメカニックと言えるでしょう。
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まずはこの大前提を頭に入れて、ソケットレンチ講習を進めていきましょう。
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それにしても、ソケットレンチ講習が、ソケットレンチのデメリットから始まるっていうのは予想外の展開ね。
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……それは、言えてる。
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自動車整備の世界ではソケットレンチが標準的な工具になっているのは事実ですが、実際にはソケットレンチにもデメリットはたくさんあります。そのあたりを正確に伝えることも、この講習では重要なのかなと思いまして……。
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とまあ、こういう人だからこそ、DIYラボのアドバイザーをお願いしているのです。
ソケットレンチと組み合わせて使うハンドルの種類は今後詳しく勉強します。
✔「めがねレンチの正しい使い方」参照。
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生気質。
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