車で使われている「ねじの種類」と「サイズの謎」
ねじの種類やサイズは膨大。そして車やバイクで使われているねじは、家具や自転車用とは違う点と、ちょっとした謎(?)もある。ここがわかると、なんとなく似たように見えていたねじが(少しは)見分けられるようになり、意外な面白みを見いだせる。
ねじの種類の基礎知識がないと、正しい工具は選べない
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今日からはいよいよ、「ねじ入門」を始めます。
※この記事の前段「ねじとは? ねじとボルトの違い」も参照。
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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「工具入門」ではないんですね? まだ。
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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……誰かさんのせいね。
●レポーター:イルミちゃん
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いいですか? ねじを回す工具というのは、ねじを回すことが目的なんですよ!
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……で、でしょうね?
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つまり、まずは「ねじについて知る」ことが、工具選びの最初の一歩となるのです。
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そういえば、ねじにもいろいろな種類がありますよね。
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そうなんですよね。車の作業で初心者の人が出会うであろうねじに絞ると、このくらい(↓)だと思いますが。
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それから、欧州車や一部国産車で登場するのが、トルクスねじ(↓)
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分かっている人には常識ではありますが、六角ボルトを回すのに六角棒レンチを買ってきても、回せません。
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同じ六角でも、アタマが六角なのと、穴が六角なのでは全然違いますね。
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ここでまず、初心者の人が注意すべきは、同じ穴付きのねじでも、六角棒レンチでトルクスねじは回せない、ということです。
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なぜ、改めてそこだけ注意するんですか?
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トルクスねじと六角棒レンチの関係が危ないのは、なんとなくハマってしまうことです。
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あらま。
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ハマっているけれど、形状が違う。そのまま回すと、簡単にズリっとナメてしまいます。
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初歩的なナメパターンとなってしまう。
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ねじに合った工具を使わないと、相手(ねじ)を壊してしまう、ということですね。
アタマが六角形のねじ(六角ボルト)
十字穴が切ってあるねじ(プラスねじ)
六角形の穴があるねじ(六角穴付きボルト)
トルクスねじ
「トルクス」はアキュメント社の登録商標。一般名称としては、「ヘックスローブ」が使われている。
六角棒レンチは、六角穴付きボルト用
車によく使われるねじ(六角ボルト)のサイズ
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ねじの形状の種類とともに、重要なのが「ねじのサイズ」です。
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サイズもたくさんありますね〜。
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例えば、車でよく出てくる六角ボルト。
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六角ボルトは、メガネレンチ、スパナ、ソケットレンチなどの工具で外しますが、どのサイズのレンチを用意しておけばよいか分かりますか?
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10ミリのボルトが出てくることが、圧倒的に多い気がします。
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10ミリは定番ですね。車で使われる六角ボルトのアタマのサイズは、小さい順に8ミリ・10ミリ・12ミリ・14ミリ・17ミリ・19ミリ・21ミリ・22ミリ・24ミリ・27ミリあたりまで。
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ホホウ。
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何か気づいたことはありませんか?
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8・10・12・14……。
つまり偶数しかないのね。 -
いやいや。17・19・21って奇数に変わるんですけど? アンタ途中で話聞くのやめたでしょ。
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あ、あれえ?
どういうルールなのコレ? -
そうなんです。けっこう変則的に、サイズが飛んでいるんですよ。
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9ミリとか11ミリとか13ミリを、ナゼか飛ばしてますね。
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車を触り馴れている人は、感覚的には常識だと思うんですが、初心者の人は「10ミリの次がなんで12ミリ?」 と不思議に思いますよね。
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いや。そもそも、11ミリや13ミリが出てこないことも知らなかったもので……。疑問にも思わなかったワ。
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……アハハハハ。
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……。
特に使用頻度の高い、定番サイズのソケット
足回りなどで必要な、大きめサイズのソケット
車のねじ(六角ボルト)に13ミリが登場しない理由は?
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なぜ、車のねじサイズは、こんな変則ラインナップなんでしょうか?
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そこは、ねじの規格とからんでくるのです。
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ホホウ。
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ねじにも規格(JIS規格)があります。まず「ねじの首下」……これはねじ山を切っている部分のことですが、首下サイズ(首下径)に対してアタマが何ミリなのか、組み合わせは全部、規格で決まっているのです。
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ただし、組み合わせパターンは一種類ではない。同じ首下でも、アタマのサイズが2〜3種類あったりします。
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……ややこしいですね。
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それは同じ六角ボルトでも、小形ボルト、標準ボルト、高力ボルトと種類があるためなんです。
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高力(こうりき)ボルトって?
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焼き入れ硬度を上げて、強い力で締められるようにしたボルトのことです。
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フムフム。
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同じ首下サイズのボルトでも、小形ボルトは小さくて、標準ボルトは中間サイズで、高力ボルトは大きいのです。
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アタマのサイズに種類があるのか〜。
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車のねじはどれなの?
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ハイ。そこです。
車の場合は、小形六角ボルトが主流です。 -
首下に対して、アタマが小さめってことですね。
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そうです。ところが、一般的には標準ボルトが主流なんですよ。
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ん? それって、車業界と世間一般では、同じ太さのねじでもアタマのサイズが違うってこと?
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そうなんです。で、さきほどの話に戻って、車のボルトだと10ミリの次は12ミリでしたが、一般的には13ミリのアタマのほうが、標準的なボルトなのです。
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なんだ、13ミリのボルトもあるのか!
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自転車とか機械とか家具だと、アタマが13ミリのボルトが使われていたりします。
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へぇー。
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車は、13ミリはほとんど使われていません。だから車の整備ばかりやっている人だと、13ミリのレンチを持っていない人も多いんです。
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どうして車では、一般的な13ミリの標準ボルトを使わないんだろう?
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車は少しでも軽量化したいからですよ。
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あー、そういうコトか。
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だから、同じ首下径なら、ひとまわりアタマが小さい小形ボルトを採用しているのです。
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それが車業界では、標準化したんですね。
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そういうわけで「自動車用工具セット」みたいなものを買うときに、小さいセットだと13ミリは入っていないことが多い。
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な〜るほど。
そういうところで、はしょっているんだ。 -
ところが、たまたま自転車のねじをゆるめる場面がくると、「あれ、12ミリも14ミリのレンチも合わないぞ」ってことになったりします。
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幻の13ミリか……。
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幻というか……ねじの世界から見ると、むしろ車のボルトのほうが特殊なのです。
標準的な六角ボルトと、小形六角ボルトの比較
ありますよ。ただし、アタマが12ミリと13ミリの六角ボルトは、首下径でいうと同じなんです
標準六角ボルト(13ミリ)と小形六角ボルト(12ミリ)の比較
欧州車をいじる人は覚えておきたい、ねじサイズ
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定番の14ミリ・17ミリ・19ミリの間のサイズですね。
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使われていないなら、工具も買わなくていいわね。
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でもISO(※)では、普通に使われているボルトサイズなんです。
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え〜っと、つまり「世界基準だと出てくるねじサイズ」ってことでしょうか?
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そうです。欧州車では16ミリや18ミリのボルトも普通に使われているのです。
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日本車の事情とは、違うんですね。
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しかし、今どきの車はプラットフォームを共用化していく流れもあるので、ニッサン車などでは16ミリや18ミリのボルトが使われ始めています。
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ねじにもオトナの事情があるのね〜。
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そういえばニッサン車は、トルクスねじも出てきますね。
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ハイ。車の作りも国際化が進んでいくと、これまでの日本車が使っていなかったような「ねじ」も登場してくることになりますね。
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DIYユーザーも車屋さんも、自転車や欧州車をいじったりするなら、13ミリ・16ミリ・18ミリのレンチがいるっていう話ね。
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工具セットを買うときは、そのあたりまで考慮して、的確に選びましょう。
もっとマニアックな話。16ミリ・18ミリのアタマの六角ボルトは、JIS規格にはありますが、あまり使われていません
一般的にはスルーされる16ミリや18ミリだが……
※ ISOとは、国際的な規格を制定する機構のこと(国際標準化機構)
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生気質。
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