ソケットレンチの差込角選び。6.3ミリ(1/4インチ)もファーストチョイスになりうる
ソケットレンチの差込角を選べるようにするシリーズ。前段の記事で「差し込み角は、迷ったら9.5ミリ(3/8インチ)がオススメ」という話をしたが、人によっては「6.3ミリ(1/4インチ)」も本命になりうる。その理由は……
差込角6.3ミリ(1/4インチ)のソケットレンチは車業界のスタンダードではないが…
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「ソケットレンチの差込角の基礎知識。サイズ選びで迷ったら……」の続き。
●レポーター:イルミちゃん
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ソケットレンチの差込角については、迷ったら9.5ミリ(3/8インチ)がオススメだと言いましたが……
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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KTCのトリー研究員がズバっとそう言ってくれたら、迷わなくて助かるわ。
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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とは言え、人によっては6.3ミリ(1/4インチ)がファーストチョイスにもなりうる、というのが今回の話です。
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おいッ!!
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……。
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車やバイクで使われているねじのサイズから考えると、差込角9.5ミリ(3/8インチ)のサイズラインナップがピッタリだって、前回言っていたじゃない。
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そうですね。その点でいうと、差込角6.3ミリ(1/4インチ)のソケットの場合、その口径サイズは最大でも14ミリまでです。
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17ミリや19ミリアタマのねじが出てきたら、対応できないんだ。
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しかも、最大で14ミリ。限界ギリギリのサイズはあまり現実的ではないという点は、前回説明した9.5ミリ(3/8インチ)と同じことです。
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では、差込角6.3ミリ(1/4インチ)のソケットレンチが現実的に対応できるねじサイズとは?
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実際のところ、現実的に使えるのは8/10/12ミリあたりの口径サイズだと思ったほうがいいですね。
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あまり大きい口径サイズは無理ってことね。
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しかし見方を変えてみると、この8/10/12ミリは車では非常によく使われているサイズでもあります。
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確かにそうだ。
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特に内装中心でみると、そのあたりのサイズがほとんどですね。
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ということは……
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足回りなどの重整備はDIYではやらない、ということであれば、差込角6.3ミリ(1/4インチ)のソケットでほとんどまかなえることになります。
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ナルホド!
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……でもさ、それにしたって、差込角9.5ミリ(3/8インチ)のソケットレンチでも、定番の8/10/12ミリはカバーできるんでしょう。
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もちろんそうだけど。
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それなら「大は小を兼ねる」で、やっぱり9.5ミリ(3/8インチ)を選んでおけばいいんじゃないの? それなら、もっと大きい口径サイズが必要になっても困らないし。
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それもそうか。
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差込角のチョイスは単純に「大は小を兼ねる」ではなくて、小さいサイズにもメリットがあるんですよ。その点も考え合わせて選びたいところです。
サイズラインナップはKTCの6.3sq.ソケット(六角)参照。
差込角6.3ミリ(1/4インチ)のラチェットハンドルを使うメリット
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ここでは差込角(ドライブ角)が9.5ミリ(3/8インチ)と、6.3ミリ(1/4インチ)のラチェットハンドルを比較してみましょう。
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並べて比較(↓)してみると、けっこう大きさが違いますね。
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重さもぜんぜん違います。9.5ミリ(3/8インチ)のラチェットハンドルは重量260gですが、6.3ミリ(1/4インチ)は重量100gしかありません。
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倍以上の重量差があるんだ。
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6.3(1/4インチ)のラチェットハンドルは小さくて軽いので、小気味よく回せます。
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同じ10ミリアタマのねじを回すにしても、作業性が変わってくるんだ。
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それでいうなら、大きい9.5ミリ(3/8インチ)のラチェットハンドルのほうが、力をかけられるんでないの? ハンドルが長いし!
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いい視点です。
それはまったくその通りです。 -
ワハハ! 勝った!
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なんの話よ。
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しかし逆にいうと、オーバートルクになりやすい、ということを意味します。
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……ありゃ?
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特に近年は、自動車の部品も小型・軽量化がどんどん進んでいます。
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ふむ。
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材質も軽量な樹脂素材が増えているため、ねじの締め付けで力をかけすぎると、相手の部品を壊すリスクが高まっています。
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エコが叫ばれる世の中の流れね。
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そんな世の中にあって、「ハンドルが小さいからトルクがかけられない」ことが、デメリットではなくメリットにもなりつつあるのです。
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へぇ。
考え方ひとつで見方が変わる。 -
エコがソケットレンチの差込角の選び方にも影響してくるとは……深いわね。
KTCの9.5sq.ラチェットハンドル
同じくKTCの6.3sq.ラチェットハンドル
差込角6.3ミリ(1/4インチ)のソケットレンチが注目される近年の流れ
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余談ですが、最近はレースの最前線にいるメカニックの間では、差込角6.3ミリ(1/4ミリ)のソケットレンチがファーストチョイスになっているんですよ。
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…え? レースでそんなに小さいのを使うんですか?
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レース用途なら本格的な大きいサイズを使うのかと思いきや……
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レースの世界では部品がどんどん小さくなって、材質も軽いものに変化しているから、必要な締め付けトルクがどんどん下がってきているのです。
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ホホウ。
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そうなると、従来は主流だった9.5ミリ(3/8インチ)だと力がかかり過ぎてオーバートルクの懸念がある。だから6.3ミリ(1/4インチ)が活躍するそうです。
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だけど、レース車両なら足回りをいじるときに困るのでは??? 大きいサイズのねじに対応できないんでしょ?
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いいツッコミね。
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足回りなどの大きなトルクが必要な場面では、9.5ミリ(3/8インチ)でも足りないので、もうひとつ上の12.7ミリ(1/2インチ)を使っているんですよ。
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6.3ミリ(1/4インチ)と12.7ミリ(1/2インチ)を使い分けているのか。
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車では標準的なはずの9.5ミリ(3/8インチ)はスルーなんだ。
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まあ、レースの世界はちょっと特殊な例ですけど、それにしても世の中の流れとして、差込角6.3ミリ(1/4ミリ)のソケットレンチが注目される傾向があるのは確かです。
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勉強になるなァ。
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こういう話は時代の流れと共に変わるんですよ。逆に30年前の自動車の整備は、12.7ミリ(1/2インチ)が中心でしたから。
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そうなんだ?
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30年前に同じ質問をされたら、「悩んだら12.7ミリ(1/2インチ)を買っておきましょう」と言っていたはずです。
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それが時代の流れとともに、変化したんですね。
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そうです。自動車部品の小型化・軽量化が進み、12.7ミリ(1/2インチ)では大きすぎるようになって、9.5ミリ(3/8インチ)が普及し、今に至るのです。
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そう考えると、近未来では差込角6.3ミリ(1/4インチ)のソケットレンチが主役になっているかも。
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今は少しずつ移行している状況ですね。だからなおさら、整備内容によっては最初から6.3ミリ(1/4インチ)でもいいかも知れない、ということを言いたかったのです。なお、車より小さなバイクや自転車の整備だと、すでに6.3ミリ(1/4インチ)のほうが最適と言えます。
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まさに歴史に学べ、ということか。
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差込角についてそこまで深く考えたこともなかったけど、歴史の流れも含めて、実に参考になる話でした。
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30年前といえばトリー研究員がまだKTCに入社したての頃の話ね。どんな新人だったのかしら。
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それはまあ、言わなくてもいい話ですね。
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生気質。
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