ラチェットハンドルのギア数(歯数)の違い。多いほどいいのか?
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ラチェットハンドルのギア数(歯数)とは? ラチェットハンドルの仕様などで、〇枚ギア…などと書いてあるが、そのギア数の違いは何を意味しているのか。ラチェットのギア数が多くなることのメリットについては、見逃されがちなポイントもあるので丁寧に解説。
ラチェットハンドルのギア数(歯数)とはなにか?
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「ラチェットとはなにか? を初心者向きに解説すると…(後編)」の続き。
●レポーター:イルミちゃん
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前回の話で、ラチェット機構の仕組みについては分かったんだけどサ……
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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ふむ。
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そもそも私が最初に疑問に思ったのは、KTCのラチェットハンドルの説明にあった「36枚ギア、送り角度10度のスタンダードタイプ」ってところなのよね。
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そういえば、そうね。
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ラチェットのギアについては教わったけど……「36枚ギア、送り角度10度」の意味は分からないままなんだけど?
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36枚というのはラチェットのギアの歯数(ギア数)のことです。
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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あ~、歯車の細かさを指しているんですね。
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ちなみにネプロス(KTCの上位ブランド)のラチェットハンドルは、90枚ギアを採用しています。
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そんなにギア数に違いがあるんだ!
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てことは、ラチェットハンドルのギア数(歯数)は、多ければ多いほどいいのかな?
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工具業界的にはラチェットのギア数は多くなる傾向にあり、一般的にギア数が多いほどいいというイメージがあると思います。
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歯車の歯数が多いメリットはどこにあるのでしょうか?
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歯数が多いと送り角が小さくなるため「送り角〇度・狭い場所で回せる」といったPR文句をよく見かけます。
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狭い場所でもラチェットハンドルを使えるってことね。
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それはまぁ、事実ではあります。例えば36枚ギアと90枚ギアを比較すると、このような送り角の差があります。
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ギア数が多いほど、送り角度は小さくなっていきます。
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ギア数の違いって、そういう意味があったのか~!
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一般的にはこれがメリットとされます。……しかし!
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しかし?
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実際には「ギア1ノッチ分しかハンドルが振れないような狭い場所での作業」なんて、めったに出てきませんよね?
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1ノッチ?
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1ノッチは、ギアの歯のひと山のことです。空転時のカチッ=1ノッチ、なんですね。
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1ノッチ分は「カチ」1回分か。ひとカチね。
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つまり「カチカチ」すら鳴らせない狭い状況ね。
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ラチェットでの作業時にそんなに小さな振り角しかないとしたら、なかなかねじを回せません。
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ほぼラチェットを振れない状況…。
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普通に考えて使う工具を変えるとか、干渉している部品を外すとか、代替手段を考えるはずです。
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それは言えてる。カチカチ分も戻せないんだから。
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そう考えたら、ギアの歯数が細かくなって1ノッチ分が小さくなっても、大したメリットがないってこと???
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ですので、そういうレアケースでのメリットよりも「ある程度ハンドルが振れる通常の作業環境でも、歯数(ギア数)が多いほうがねじを早く回せる」という点のほうが、実ははるかに大きなメリットなです。
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歯数(ギア数)が多いほうがねじを早く回せる……?
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え、ねじを回すスピードとギア数って関係ある???
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ありますよ。むしろここからの話が見逃されがちなので、この講習では強調しておきたいと思います。
ネプロスのラチェットハンドルは90枚ギアを採用しているが、仮に同形状・同サイズで36枚ギアであった場合にはどういう差が生じるかを図にしたもの。
ギア数(歯数) | 送り角度 |
---|---|
18枚 | 20度 |
24枚 | 15度 |
36枚 ※KTC | 10度 |
60枚 | 6度 |
72枚 | 5度 |
90枚 ※ネプロス | 4度 |
100枚 | 3.6度 |
120枚 | 3度 |
ラチェットのギア数(歯数)が多くなることのメリット
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ラチェットはハンドルを往復運動させることでソケットを回転させます。
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おさらいですね。
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ハンドル1往復(1ストローク)あたりの回転角度が多いほど、1回の振りでたくさんねじが回る……ということになります。
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ここまでは当然の話ね。
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そして、1ストロークあたりの回転角度は、ギアの歯数(送り角)とストローク量の組合せによって変わります。
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……ん? そこって、ギアの歯数も関係あるの?
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というのも、ラチェットを空転(逆回転)させた角度だけ、常に回転(正転)させられるわけではないので。
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ラチェットを逆回転させた分だけ、回転させられるわけではない……?
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う~ん? ラチェットって、逆回転した角度のぶんだけ、回転できるはずでは???
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確かに往復運動なんだから、そこはイコールのような気もしますが……
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ここで、これまでに勉強したラチェット機構の仕組みを思い出してください。
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ラチェットが空転時(逆回転時)に、クロウはギアの谷から山を乗り越え、次の谷にはまります。
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つまり1ストロークあたりの回転角度は、空転時にギアのいくつの山を超えるられるか、で決まります。
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だから、「カチカチカチ」って3山超えられたら、次はその分だけ回転できるってことでしょう?
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ふむ。
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しかしラチェットのギア数(歯数)が少ないと、山と山の距離が長くなりますよね。
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む…?
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となると、次の山を越える前に空転(逆回転)から正転になってしまう可能性が高くなります。
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あ。山を越えようとしている途中で、折り返すことになるのか。
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そうなんです。クロウが山を越えなければ、その直前のストロークがムダになってしまい、結果的に回転角度が少なく、効率的に回せません。
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そういうことかぁ。
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逆回転した分、正転できるわけではない……ということは、ロスが生まれてしまう。
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ラチェットのギア数(歯数)が多いほど、そのロスを小さくできるんだ。
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生気質。
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