ねじ(プラスねじ)をなめる原因。なめやすいのは、理由がある
ねじはなぜ、なめるのか。特にプラスねじはなめやすい。ここでは、ねじをなめる原因をよりわかりやすく解説するために「ねじの構造」および「歴史」にも少々触れてみる。
プラスねじ(十字穴)はなめやすい
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さーて、理想のプラスドライバーも入手できたところで、いよいよ「正しいドライバーの使い方」ね。
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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その前に、相手となる「プラスねじ」の勉強をしておきましょう。まさに再入門です。
※連載の記事一覧(→)「目からウロコの工具〈再〉入門 ╱もくじ」
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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ドライバー編のはずが、再び「ねじ講習」!?
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……アハハ。
●レポーター:イルミちゃん
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工具の正しい使い方を知るには、相手を知ることが大切なのです。
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……出たな、トリー節。
隙あらば〈ねじリバース〉ね。 -
プラスドライバーの場合、相手は「プラスのねじ」ですね。
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そうですね。それでなくても、プラスのねじはなめやすいから、要注意なんです。
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「なめる」とは、十字の穴を潰すやつ……?
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プラスねじは、力まかせに回すとカンタンに「ズリっ」といって、十字のミゾが壊れてしまう。これが「なめる」ですね。誰でも経験することだと思いますが。
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例えば六角ボルトだと、レンチをガチっとハメ込むから、カンタンにはズルっとなめることはありません。
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確かに。この六角ボルトに、なめるイメージはあまりありませんね。
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でもプラスねじは十字のミゾが潰れやすい。なのでズリっとなめないためには、押し回し……つまり押しながら回す。それがドライバーの基本的な使い方となります。
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回すだけではダメだったのか。どうりでなめるはずだ。
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しかしここで、疑問が湧いてきます。
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……と言いますと?
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なぜ、わざわざ「押す」という要素があるのか。不思議ではありませんか?
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……ドライバーとプラスねじで、そこまで深く考えたことないもので。
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プラスねじ以外のねじは、きちんとはまっていれば「押す」を意識する必要はないです。例えば、組み立て家具などで出てくる六角穴付きボルト(キャップボルトとも呼ばれる)なども……
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これ(↑)は押し回しなど、する必要がない。単に「回す」だけで締めたりゆるめたりできるのです。
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そう言えばそうですね。
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それなのに、なぜドライバーだけは「押し回し」を要求されるのか。
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考えてみるとヘンかも。
(考えたことなかったけど) -
全部六角ボルトと六角穴付きボルトにしてしまえば、ねじをなめる事故は減るはずですね。
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でも現実にはプラスねじは、一番普及している。そこには理由があるのです。
なめたねじ
押しながら回す
六角穴付きボルト
プラスねじの歴史と構造を学べば、なめる確率は激減する
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入れやすい……?
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例えば六角ボルトは、カドがきっちり合わなかったら入らない。だから形状が一致するように、工具の位置を微調整して、ハメ込まないといけませんよね。
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この形状は工具をハメ込むこと自体に、少し手間がかかります。いっぽうプラスねじは、プラスドライバーを押すだけでハマるのです。
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作業効率の面で見ると、スピードが全然違う。高速に製品を組み付けるのには、プラスねじが適しています。
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ナルホド。
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ですからプラスねじは、産業革命以降の大量生産の時代に、大量にねじが使われていく過程で普及したのです。
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……さ、産業革命!? トリー研究員、連載のプロローグ(※)では国語の先生っぽかったけど、世界史?
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ここからは、ねじの歴史の時間のようです。
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歴史と言えば、そもそも大昔は、マイナスのねじしかなかったのです。
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え、そうなんだ。
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単純にミゾを切るだけのマイナス形状が、一番カンタンに作れますからね。
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確かに。
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しかし、マイナスねじも、ドライバーを一致させるのに手間がかかります。
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それでマイナスより、プラスが普及していくのか。
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初期のプラスねじは、単なる十字のスリットでした。のちに先端を尖った形状にして、「押しながら入れると、スッとミゾにハマる構造」を、米国のフィリップスさんが考えました。
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それがフィリップスねじということで、アメリカから世界中に広がりました。それが今日の、プラスねじのベースですね。
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ウーム。
歴史の重みを感じますね。 -
(ねぇ、ねじをなめないために、そこまで知る必要あるのかしら?)
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米国では今でも、プラスねじのことを「フィリップス」と呼びます。英語では、「プラス」とは言わないのです。 ※「クロス」という表現ならある。
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英語圏でプラスドライバーを購入するときには、こう言いましょう(↓)
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……おい。
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う〜ん。でも「May I〜」は少々堅苦しい(丁寧すぎる)気がしますね。「Can I〜」の方が自然かと思います。
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……はい?
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……ム! 私はあえて、日本人的な敬語表現にこだわって使ったのに。
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って、なんの授業よこれは!!
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少々話が逸れましたが……「押すことでハマる」のが、「ドライバーとプラスねじの構造」なのです。
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押さないでドライバーを回すというのは、つまり……
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漫才で例えると、相方がボケてないのに、ツッコミを入れるようなものです。
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(……また変なこと言い出した)
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ボケのないツッコミは、漫才ではなく、ただのイジメです。
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だから相手(ねじ)が傷つく。
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ハイ。
そういうことですね。 -
……ねぇ、アナタ達こそ、さっきからボケ×ボケになってるんですけど?
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まあ、とにかく、ねじを回したい気分になってきた。
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プラスねじの歴史と構造を学んだところで、次回からはいよいよ実践編です。
プラスねじが広く普及した理由は、「工具を入れやすい(挿入しやすい)」からなんですよ
六角ボルト
フィリップスさん……。
ココ試験に出るトコね。メモメモ。
トリー研究員のミニ英会話教室
「May I〜?」と「Can I〜?」は、ほぼ同じ意味ですがニュアンスが違います。前者はへりくだった表現、後者は自分の能力を使っていいか確認する表現なので、店員さんがお客さんに声をかけるときは「May I help you?」、道端で困っている人に声をかけるときは「Can I help you?」が自然です。ケースバイケースで、どっちが正解というわけではないですが。
✔ ドライバーのサイズが合ってない場合もなめるが、これについては、「プラスドライバーのサイズの種類。買うべきは何番か?」参照。
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生気質。
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