ラチェットハンドルのメンテナンスに関わる知識。グリスとオイル(潤滑油)の違いとは?
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ラチェットハンドルのメンテナンスには、マメな人ほど陥りそうな落とし穴がある。その理由は、ラチェットハンドル内部のグリスとメンテナンスで使うオイル(潤滑油)の違いを知ると明らかになる。
ラチェットハンドル内部に使われているグリスの種類
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「ラチェットハンドルの正しいメンテナンス方法を、構造面から理解しておこう」の続き。
●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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ラチェットハンドルは日常のメンテナンスではオイルスプレーを吹く必要はない、という話でしたが……
●レポーター:イルミちゃん
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KTCのトリー研究員に言わせると、「吹く必要性がない」どころか「吹かないほうがいい」と言わんばかり。
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はい。日常的なメンテナンスという意味では、ラチェットハンドルにはオイルスプレーは吹かないほうがいいです。
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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そこまで言うんだ。
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これはなぜかというと、ラチェットハンドルの内部には、新品時にはグリスが薄く塗ってあるからです。なお正式には「グリース」(※)と言いますが。
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ラチェット機構はギアとクロウの噛み合わせなので、滑りをよくするための潤滑剤として……それと錆防止の目的からグリスが塗られています。
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グリスだって、油じゃないの? 油がさしてある部品に、油を足して何が悪いのかしら。
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ここで一般的に使われるオイルスプレー(潤滑油)とグリスの違いについて勉強しておきましょう。
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オイル(潤滑油)とグリスの違いとは?
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硬さ(柔らかさ)が違います。オイルはサラサラ、グリスはドロっとしていますよね。
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粘度が違うのね。
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そうですね。ちなみにグリスの場合は「粘度」ではなく「ちょう度」という、硬さを示す指標があります。
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ほほう。
そんな言葉があるんだ。 -
ちょう度は番手みたいに数字で呼ぶんですけど、一般的なグリスは「1」とか「2」ぐらいに相当します。
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数値が増えるほど硬くなる?
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そうですね。しかし一般的なちょう度のグリスを、ラチェットハンドル内部に塗ってしまうと問題が起こります。
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む。
問題とは……? -
以前にラチェットハンドルのギア数(歯数)を勉強しましたが、現代のラチェットハンドル……特にネプロスなどは昔のものに比べて歯数が多くて、1段あたりの動きだと、目で見ても分からないレベルの細かさです。
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そのような構造のものに一般的な硬さのグリスを塗ると、クロウとギアがくっついてしまうんですよ。
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一般的なグリスだと硬すぎる?
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そうなんです。動かなくなってロックしてしまいます。
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今どきのラチェットハンドルのクロウとギアの噛み合わせは、シビアなんですね。
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しかし、いっぽうでグリスではなくオイル(潤滑油)となると、これは逆に粘度が低くて流れやすい。
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ふむ。
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流れやすいということは、切れやすいということですから、内部が錆びやすくなってしまいます。
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ラチェットハンドル内部には、一般的なグリスだと硬すぎて、オイルスプレーだと柔らか過ぎる、と。
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そうなんです。そこでラチェットハンドルには、両者の中間的な硬さのグリスが必要になります。
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でも「1」や「2」では硬すぎるんでしょう? ちょうどいいちょうどが無いねェ~~~なんて。
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……。
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無視して続けましょう!
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グリスのちょう度には「1」よりも柔らかい「0」という番手もあります。
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「1」が一番下ではないのか……なるほど。
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少し粘度はあるけれど、そんなに硬くはない0番のグリスを、ごく少量……これは一般の人が考えるよりもずっと少ない量(コメ一粒分くらい)を薄く伸ばして塗布し、組み付ける。それがベストな潤滑剤の入れ方です。
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へぇ~。
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……それは分かったけど、その話って日常的なメンテナンスには関係ないよね?
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まあ、分解までするわけじゃないからね。
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確かにグリスの塗布については分解整備までするときのやり方ではありますが、この話が日常のメンテナンスの注意点とも関わってくるのですよ。
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どういうこと?
※DIYラボ上では、一般に広く使われていて、口語として違和感のない「グリス」のほうで表記します。
オイルスプレー(潤滑油)によって、ラチェットハンドル内部のグリスが流れてしまうリスク
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オイルスプレー(潤滑油)をたくさん吹き付けるとそれが内部にも浸透して、グリスが流されてしまうリスクがあります。
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ああッ!
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粘度の低いシャバシャバのオイルで、グリスを流して落としてしまうんだ!
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そうなんです。日常的にはあまりオイルスプレーを吹いてほしくないのは、そんな理由もあるからです。
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メンテナンスをちゃんとしたつもりが、逆効果とは…
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ラチェットハンドルに限った話ではありませんが「グリスを塗布して潤滑している部分に対して、オイルスプレーを吹く」のは基本的には厳禁なのです。
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そうだったのか。
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グリスによる潤滑は、最初の段階でメーカー側が構造や目的に合わせて、グリスの種類(硬さ)も適切なものを選定して塗られている状態ですので……
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それよりも粘度の低いオイルスプレーを使うと、洗い流してしまうのね~。
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これは目からウロコ感が半端ない。
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錆防止でオイルスプレー(潤滑油)を使っている人は、逆に注意しましょう。
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錆について言えば、ラチェットハンドルは金属の地肌が露出してはいないので、そんなに心配はいらないです。
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メッキがかかっていない部分はどうなの? 錆びたりしないのかな?
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黒い色は防錆処理の色なんで、ここも普通の環境ではそうそう錆びることはないです。
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なるほど。
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どうしても錆が気になる人は、ごくごく少量のオイルスプレーを吹いて、さっと拭き上げる……程度のメンテナンスならやってもいいかも知れませんが……
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ふむ。
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しかしそれも必須ではないし、オススメするわけでもありません。
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ラチェットハンドルのメンテナンスは、ポイっとほったらかしが一番ってことね。
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そうじゃないでしょ! ちゃんと工具箱にしまいなさい!!
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……。
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生体質。
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