工具は進化し、どこに向かう? 東京モーターショーでKTCが伝えようとしていたこと
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工具だけに限らないが、最近は「進化」というと、IoTやAIがよく出てくる。これが時流ではあるが「よく分からない」と感じる人が多いはず。そしてKTCの工具の進化の話にもIoTは出てくるが、それによって向かう先はある意味とても明快で、ホッコリする話だった。
工具における「統合の進化」ってなんのこと?
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「知れば〈工具の選び方〉が変わる!? KTCの工具の進化を番外解説」の続き。
●レポーター:イルミちゃん
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前回は、「材質」と「構造・機構」の面から、工具の進化について紹介しましたが……
●アドバイザー:KTC トリー研究員
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……で!
KTCの究極の目的の件なんだけど……●DIYラボ別館 ユキマちゃん
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今日はまず、「統合の進化」について解説しておきたいと思います。
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(……む、無視された!?)
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工具の材質や機構が進化しているのは分かりましたけど、「統合の進化」って、なんのことでしょうか?
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これはようするにテクノロジー系ですね。最近でいうとIoTとか、トレーサビリティなどと言われるようなもののことです。
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IoT(※)は最近よく聞く、流行り言葉ですよねー。
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しかし、KTCにおける「統合の進化」は最近の流行りにのっかった話ではなくて、昔からやってきたことです。
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昔からって?
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統合の進化の起源は、CAD(※)なんですよ。昔の工具は、職人の経験と勘を元に作られ、それが手書きの図面で伝承されていました。
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それがCADの登場で、アナログの図面がデジタルデータに変わります。
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なるほど。
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ただ、手書きの図面がデジタルになっても、この段階では工具の本質は変わっていません。
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確かに出来上がった工具で見れば、ほぼ同じですね。
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いまどきはどこのメーカーもやっていることだし。
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しかしKTCでは、図面をデータに変えるだけで終わらず、そこから工具にセンサー等を組み込み、「通信」という形で新しい技術を取り入れていき……
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金属加工の製品と、一見すると何も関係なさそうな「センサー・マイコン・通信技術などを合体させたらどうなるか」に取り組んでいきました。
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ふむ。
どうなったの? -
そこから生まれてきたのが、デジラチェなんです。
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機械式のトルクレンチでは、どうしても作業者のレベルによって締め付けトルクにバラツキが出る。それを数値化することで、誰でも安心して使えるようにしました。
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デジタルと工具の融合か〜。
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そしてデジラチェに通信機器を付けたものが、デジラチェ[メモルク]なのです。
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作業履歴を記録して、そのデータをPCに転送することが可能になった。
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さらにそこから進歩して、IT技術を取り入れたトレサスシリーズにつながってきているんです。
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トレサスはこの間、勉強したよね。
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ようするにKTCの工具はテクノロジーを融合させて、さらに進化し続けているんですね。
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……それは分かったけど、その先にあるKTCの究極の目標ってなに?
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それは、「笑顔」なんですよ。
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……は?
誰の? -
人の笑顔。
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……。
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……。
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いまいち伝わっていないみたいですね……。こうなると思っていましたが。
※ モノとインターネットをつなぐ、という概念のこと。
※ CADは、「Computer aided design」の略。コンピューターを用いて設計すること。
KTCのデジラチェ
KTCのデジラチェ[メモルク]
安全性能を追求してきたKTC。IoTもAIも目的は同じ
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いまのところ、ちょっと固まってしまったので、もう1回聞き直します。
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工具を進化させ続ける、KTCの真意はどこにあるのか?
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KTCの工具における優先順位は、①安全、②快適、③能率・効率です。これは前にも言いましたよね。
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一番重視しているのは、安全性。
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その点はまあ、進化の方向性からも分かったけどさ。
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そして工具の安全性というのは、何も工具を使うユーザーに限った話ではありませんよね?
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と言いますと?
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工具を使ってメンテナンスされた車やバイク、自転車、機械の安全性にも直結しています。
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それは確かにそうだ。
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もっと言うと、鉄道や船舶、発電所の設備だって工具が使われていますし。
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ハンドツールの話なのに、なんか話がデカくなってきた。
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そうでもないです。実際のところ、KTCの工具はあらゆる場面で使われているんですよ。
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新幹線が出てくるとは……!
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工具を使って整備されたものが、当たり前のように動いている。それが「人々が笑顔で楽しく暮らせる」ことにつながるのですよ。
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工具のせいでケガをしたり、事故が起こったりすれば……
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確かに笑顔ではいられないけど……
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でも、改めて「笑顔のために」とか言われてもキレイごとにしか聞こえませんよね?
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そうそう。なんだか企業イメージアップのための、よくあるキャッチコピーみたいな感じ?
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こういう話は言葉だけではなかなか伝わらない。だから東京モーターショーでは、「工具の進化」という側面からそれを伝えようと試みたのです。
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「安全・安心、その先にある笑顔」というのは、とって付けたように言っているわけではありません。創業当時から受け継がれているKTCのDNAなんです。
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KTCの工具って、最初からそういうコンセプトなんだ!
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そうですよ。我々はそれを受け継いでいるに過ぎず、最近ではIoTやAIにも取り組んでいますが、その目的……根底にあるものは、70年前から不変です。
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IoTとか流行りっぽくて、ぜんぜん重みがないイメージだったけど……
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KTCの工具の進化は、重みが違いますね。
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KTCは、ただの鍛冶屋じゃないんだぞ、っていうことが分かってもらえたら幸いです。
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……いや、誰も、KTCがただの鍛冶屋とは思ってませんけどね。
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でもまあ、トリー研究員の熱弁のおかげで、「安全」が工具にとって一番重要な性能なんだってことは分かった!
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今後のKTCの進化が楽しみです。
✔ 一例を挙げると、日立製作所が製造している新幹線のボルトの締結には、KTCのデジラチェ[メモルク]が使われている。
✔ 理由はもちろん、ボルトの締め付けトルクの厳密な管理のためだ。
KTCは2020年に、設立70周年を迎える。
DIY Laboアドバイザー:トリー研究員
KTC・ブランド戦略部に所属。『なるほど!工具ノート』でおなじみの「朝津かな」さんの先輩にあたり、工具のイロハを教えた師匠のひとり。多忙な中でも、工具のことについて質問されるとトークが止まらなくなる生粋の先生気質。
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