アクリルヘッドライト加工方法(第9回)
ヘッドライトインナーの切り方の極意
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前回はヘッドライトインナーをきれいに切る(くりぬく)コツを教わりましたが、今日はその続き。
●レポーター:イルミちゃん
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ヘッドライトインナーを削って広げていく工程は、単に薄く切っているだけではないんです。
●アドバイザー:球屋 森田研究員
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前回、だいぶ手間のかかる(ドMレベルな)削り技を見せてもらいましたが、まだ何かコツが?
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実は広げながらも、断面を少しずつナナメに削いでいってます。
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どういうことでしょうか?
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わざと断面をテーパー状に削っていく。ヘッドライトインナーの表面の切り口のほうが狭く、背面が僅かに広くなるような削り方です。
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ええ!! 断面がテーパーですってっ!? なぜわざわざそんな切り方を? この先、裏技の気配がしますっ!
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いろいろ理由があるので順番に説明しますが、まずそのほうが表面のメッキ部をキレイに切ることができます。
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それはなぜですか?
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裏面に向かってテーパー状に断面が広がっている、ということは、表側に向かって板厚が薄くなっていきますよね。
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確かに。
メッキの切り口は、鋭利な感じになりますね。 -
で、最終ラインを決めるときには、薄くちょっとだけ切ることでラインを作れる。これが切り口をキレイに切るコツなんですよ。
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へぇー!
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厚みがない分だけ、超音波カッターとインナーの摩擦が減るので、キレイに切れる。
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最初の段階で刃を入れるときの、逆ってことか。
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そうです。1発目に切るときはズブっといく他ない。でもインナーの厚み全体を、一気に切るような切り方では、キレイに切れない。
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だから最初から本線は切らずに、内側から入ったんですよね(前回記事参照)。
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最終の仕上げのラインはその逆。インナーが薄くなっているほうが、メッキのカットラインがキレイに仕上がるわけです。
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最後のメッキのカットラインは、こんな風に少し切る、という感じです。
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これなら、切り口がグズらない!
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そう。メッキをキレイに切るのは意外と難しいんですよ。グズグズになりやすい。メッキを残したヘッドライト加工は、難易度が高いです。
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球屋のインナーカットの極意を教わったぞ〜。
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ちなみにテーパー状に切る理由は、まだあります。
アクリル板はインナー裏から埋め込む想定
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型取りラインに沿ってある程度削れたら、そこから先は実際にアクリル板をあてがって、当たる箇所を見ながら、少しずつ削っていきます。
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目分量で少しずつ広げていって、ピッタリ入るところを探るわけですが……、
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そのうちに、アクリルがハマるわけですね。
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そうなんですが、スコーンとは抜けないようにしたいんです。
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ムムム……。
それはまた難しいこと言ってますね。 -
これは切ったあとの話になるんですが、最終的にアクリル板は表ではなく、裏から入れます。そのほうがキレイに作れることが多いので。
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……え?
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どうかしましたか?
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でもこの作業って、そもそもアクリル板の形に合わせて、ヘッドライトのインナーを切ってるわけですよね?
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そうですね。
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だったら、切り終わった時点で、アクリル板は表でも裏でも、どっちからでも入ると思うんですけど?
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いや、そうではないんです。球屋のアクリル加工でインナーを切るときは、基本的には表からはアクリル板が入らないように切っています。
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なにソレ。
マジック……? -
切り口をテーパー状(ナナメ)にする理由、その②です。表面のほうが口が狭くなっていることで、裏から差し込んだアクリルが途中で止まるように削るんです。
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最終的にアクリル裏面が「インナー裏面と、ツラになるところで入り止まる」のが理想です。これは、アクリルをキレイに面発光させるコツにもつながります。
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ひええ。
〈球屋〉らしい、変態レベルの加工が出た。 -
ヘッドライトインナーの厚みより、5ミリ厚のアクリルのほうが分厚い。ココで裏面をツラにすると、表面に少しだけアクリル板が出っ張ります。
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表面の口のほうが僅かに狭い。それによってアクリルがそこで止まるように、開けているんです。アクリル同サイズの穴、まではいってない。だから抜けません。
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手作業なのに……。
なに!? この恐ろしい精度……。 -
……と言うか、慣れですね。こればっかりは。集中力と馴れの問題。
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……まあ、そういうことにしておきますね。やっぱり〈球屋〉の加工は変態です。みなさん。
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表からアクリルを埋めたらダメ、という話ではないです。インナーの形状によっては表から入れることもありますが、それは例外。
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ふーん。
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僕らが経験してきた中では、裏からアクリルを入れるほうがキレイに仕上がるインナーが多いんですよ。
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そしてこの穴開け加工を、アクリルフィンに合わせて繰り返していくと……、
真っ直ぐな断面に見えるが、違う
✔ ひとくちメモ
●レーザー加工機で切り出したアクリル板自体が、実は四角形ではなく、大げさに言うと台形型。これは「レーザー照射で切るときに、表面になっているほうが熱がかかって溶ける量が多いからです」。●つまりアクリル表面のほうが僅かながらに面積が狭く、裏面のほうが大きい(つまり台形)。この特性を利用して、途中でアクリルが入り止まるのを狙い、インナーをテーパー状に切っている。
表から見ると隙間がまったくない!
4段目までの穴開けに成功
球屋でも難しい!? 難易度Aクラスのインナーカット
今回のモデルヘッドライトは、トヨタ86(ハチロク)。アクリルを埋めた部分は、下にいくほど側面の壁が食い込んでくるような形状だった。そのため、最後の5本目の穴開けの難易度は「今年、一番難しかった」(球屋・田中氏)というレベルになった。
なにしろ、アクリル板に沿ってケガキ線を書こうにも、ペンが入らない。そのため、奥の線はフリーハンド(目安にしかならない)。
超音波カッターの刃がまっすぐ入らない状況で少しずつ削っていく。
まずはケガキ線を描けた2辺のラインをしっかり切り出すことを目指し、この2辺を軸にする作戦。
ここから先はケガキ線がアテにならない(ペンで書けない)ので、先に削った2辺を軸に実際にアクリルを当てて、慎重に様子を見ながら削る。
通常はやらない、裏面からの削り込みでテーパー形状を作っている(※表からやろうとすると、インナーのフチに超音波カッターが当たってしまうラインがあるため)。「ただし裏から切るのは、それ自体が本来はバクチみたいな行為です」。
どうしても超音波カッターの刃が入らない場面では、棒ヤスリも使う。
「表のメッキ面は、棒ヤスリで削るのはNGです。ラインがギザギザになって荒くなるので」。あくまでも、少し奥まった断面を削るのに使っているのみだ。
5本目も投入できた!
インナーも3次元でひねるように曲がっているが、アクリルとインナーの間に、肉眼では隙間が見えない(↓)。まるでアクリルをペタリと貼り付けたかのよう。
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球屋のアクリル加工の神髄は、ようするに、実はインナー加工(インナーカット)にあるような気がします。
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まあ、こればっかりは、慣れですね。
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このように加工のすべてを公開してもらいましたが、実際にやるとなると、かなりの経験が必要だと感じますね。
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そういう面はありますね。いずれにしても、アクリルヘッドライト加工は、インナー加工の精度がとても重要なのは確かです。その意味では、今回の作業がキモですね。
この記事の実践アドバイザー
球屋・田中宏信サン。森田研究員に輪をかけたドM。働き者。
DIY Laboアドバイザー:森田広樹
LED加工専門店・球屋代表。アクリルづかいを筆頭に、最先端のライト加工技の探求者。実際にお客さんの10台中9台はアクリル加工をする、というほどのエキスパートだ。派手さよりも「完成度と質感」を重視。デザイン性の高さでも全国屈指。
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