アクリル板の「押出し」と「キャスト」の違い。LED加工に使うならどっち?
アクリル板には「キャスト」と「押出し(押し出し)」の2種類があるが、その違いは何か。ここではDIYで使う材料という観点から、実際に、両方を同条件で手磨きでブラスト風加工したり、光らせたりして比較してみた。
アクリル板には製法の違いで「押出し板」と「キャスト板」がある
-
アクリル加工のプロに、アクリル板の選び方について教わります。
●レポーター:イルミちゃん
-
まずアクリル板には「押出し」と「キャスト」の2種類がありまして……、車のアクリル加工で使うなら、どっちがいいの? という話をしたいと思います。
●アドバイザー:球屋 森田研究員
-
ん?
なんの話ですかソレ? -
アクリル板の製法の違いですね。
-
そんな違いがあったんですね。
-
カンタンに言うと、こういう違いです。
-
自作ユーザーの人も、アクリル板を買うときに「どっちがいいのか?」迷う要素ではあると思います。
-
球屋のアクリルヘッドライト加工は、どっちを使っているんですか?
-
キャストですね。
キャストしか使わないです。 -
ほほう。
いきなり結論。ナゼですか? -
キャストのほうが固いんですよ。
-
固い方を使っている。
-
一般論で言うと、固くない「押出し」のほうが加工しやすい、とは言われているのですが……
-
だったら、押出しも捨てがたい気が……
-
ただ、使ってみれば分かるんですが、キャストアクリルでも普通に加工はできますからね。
-
そういえば、以前にアクリル板の切り方や曲げ方を教わりました。
-
これはどっちを使っていたんですか?
-
キャスト板です。ウチでは基本的に、キャストしか使わないので。
-
つまり、固いキャストアクリルでも、別に加工できないほど固いわけではない。
-
そうなんですよ。それと、球屋での実際の加工では、レーザー加工機を使ってアクリルを切っていますが……
-
この場合、押出しアクリル板だと、熱でアクリル断面が溶けてグズってしまう。それが押出しアクリルを使わない決定的な理由です。
-
あらま。
-
押出しアクリル板のほうが熱に弱いので、その差が出るんですね。
-
なるほど、なるほど。
-
ということはつまり、押出しのアクリル板だと、ヘッドライトの中で使うには熱の心配もありますね。ただし、ここは実際に使って検証したわけでありませんが。
-
ただ、キャストのほうが熱に強い、というのは事実なんですねぇ。
粘土状のアクリル樹脂をローラーで押し出して成形するのが「押出板」
溶けた状態のアクリル樹脂を型に流し込んで成型するのが「キャスト板」
※「アクリル板のきれいな曲げ方」参照。
レーザー加工機
押出しアクリルは、溶剤の使用で亀裂が入る可能性も!?
-
もうひとつ、知っておきたい重要な部分。「押出しのアクリル板は、溶剤の影響で亀裂(ソルベルトクラック)が入りやすい」と言われています。
-
そういえば、球屋のアクリルヘッドライト加工では、アクリル板の固定・接着にコーキング剤を使っていますよね。
-
これについて、「ソルベルトクラックは入りませんか?」と、アクリルに詳しそうな読者の方からご意見を頂いたことがあります。
-
球屋で加工したケースでは、起きていません。もちろんそのあたりは、検証済みでやっていることです。
-
フム。
-
ただ、確かに世間的には、アクリル板にヒビが入っている例というのは見かけます。
-
……それって、もしかして「押出しアクリル」を使って自作したから……とか?
-
まあ、憶測ですけど、そういう可能性はあるかも知れないな、と思って、ひとつ実験してみましたよ!
-
実験?
-
いつもの球屋のヘッドライト加工と同じように、コーキング剤を使って、2枚の押出しアクリル板を接着して、放置してみました。
-
さすがアクリルヲタ……いや、森田職人!
-
表面に傷を入れるブラスト加工したもの(面発光用)と、透明のままの2種類で、同じことを実験しました。
-
ほー。
で結果は? -
最初しばらくは、何も起こらなかったんですが……
-
フムフム。
-
「せっかく実験したのに、なんだ面白くないなー」と思って、それきり長いこと忘れてしまいまして……
-
(……ドMのくせに、放置プレイ?)
-
あるとき、思い出して見直してみたら、表面を削ったほうの押出しアクリル板には、なにやらヒビのようなものが入っていたんですッ!!
-
気泡とは別に、ヒビが入っているのが分かるでしょうか。
-
キター!! これが噂のソルベルト・フラーーーッシュ!! ……いや、ソルベルト・クラッシュだっけ?
-
……ソルベルトクラックね。
-
あー、ソレソレ。
-
押出しアクリル板だと、絶対にこうなるとは言い切れません。でも少なくとも、普段使っているキャストアクリル板では見られない現象が起こりました。
-
では、一般論として言われている「押出しアクリルは溶剤の影響を受けやすい」は本当なんだ。
-
そのようですね。ただし、ツルツルのままのアクリル板を貼り合わせる分には、問題は起こりませんでした。
-
それはなぜなんだろう。
-
溶剤が、アクリル板の奥まで浸透しなかったから、かと思われます。
-
なるほど〜。押出しアクリルをブラスト加工して使う場合は、特に注意が必要なのかもしれません。
間に塗ったコーキング剤の気泡が見えるが、この気泡は無関係。
LEDで面発光させるときに「キャスト」と「押出し」の差は出るか検証
-
次に、アクリル板をLEDで面発光させる場合の違いについて、検証してみます。
-
球屋では、アクリル板を光らせるときは、レーザー加工機を使ってブラスト加工(表面に細かい傷を付ける)していますが……
-
上(↑)は、キャストアクリルです。
-
これを、押出しアクリルでやると……?
-
こうなってしまうんですよ……(↓)
-
キャストは固いので、キレイに削れます。しかし押出しは柔らかいので、ブラスト加工によって削られる量が多く、表面がボコボコになってしまうんです。傷が深くなり過ぎるというか。
-
これでは光らない?
-
光りますが、拡散性が出ないんです。キャストのほうが、キレイに光ります。
-
確かにキャストのほうが美しい面発光。
-
…とはいえ、自作でやる場合は、レーザー加工機はないのが前提じゃないですか。
-
そういえば、手磨きでブラスト加工風にする技というのも教わりました。
-
この場合は、ペーパーがけでアクリル板に傷を付けるわけですから、レーザーで焼くのと違って熱はかかりません。
-
確かに。
せいぜい摩擦熱ですね。 -
……ということは、押出しアクリルでも、別にいいのかも知れません。
-
やってみました。
-
簡易的に磨いたのがこちら(↓)
-
見た目には、違いが分かりませんね。
-
では、LEDで導光させてみましょう。
-
あれ?
光らせても、特に差がないような……? -
手磨きでいく限りにおいては……ですが、押出しアクリルとキャストアクリルの差はなさそうですね。
-
レーザー加工だと、あんなに差が出るのに。
-
そうですね。
-
では、手磨きならどっちでもいいってことか。
-
一般論で「押出し板は、柔らかくて加工しやすいのがメリット」と言われていますが、今やったような削るぐらいの手間だと、加工性という意味でも同じレベルでした。
-
特にキャストだから加工が大変とか、押出しならラクという感触はない?
-
今回の実験では、そうでした。曲げるときも「熱をかける」という意味では、やることは同じなわけですよ。
-
確かにね。
-
……となると、熱で変形するリスク、溶剤との相性によってはクラックの入る可能性のある押出しを、わざわざ車のヘッドライト内で使うイミは薄いのでは、と思います。
-
ヘッドライト加工用に選ぶなら、「キャスト」。
-
……というのが球屋の結論ですね。
-
あとは皆さんの用途に合わせて、選んで頂ければ……と思います。
透明アクリル板をブラスト加工
LEDの光を当てると面発光する
シャカシャカ
800番のペーパーで磨いている。
※やり方は「アクリル板のきれいな曲げ方」参照。
DIY Laboアドバイザー:森田広樹
LED加工専門店・球屋代表。アクリルづかいを筆頭に、最先端のライト加工技の探求者。実際にお客さんの10台中9台はアクリル加工をする、というほどのエキスパートだ。派手さよりも「完成度と質感」を重視。デザイン性の高さでも全国屈指。
関連記事
- アクリル板の種類。LEDで光らせるならどれ?
- アクリル板のきれいな切り方
- アクリル板のきれいな曲げ方
- アクリル板をDIYでブラスト加工風に処理する方法
- アクリル板の固定・接着にコーキング剤が向きな理由
- 乳白色アクリル板を裏に使う! プロ加工者の拡散テク
- アクリル面発光の光源は、どんなLEDがよい?
- LEDテープでアクリル板をキレイに光らせるコツ
- アクリル板をLEDでグラデーション発光させる方法
- アクリル製イカリングはCCFL管とどう違う?
- アルミ調アクリルってなに? その使い方は?
- LED加工のプロが明かす! アクリルヘッドライト加工方法①
- カップホルダーイルミにアクリルLEDを使う技
- ウインカーLEDにアクリルを使うことを、基本的には推奨しない理由