キャンバーボルトのリスクを正しく理解する
キャンバーボルトは手軽にキャンバー角を付けられるアイテムだが、純正より細いボルトに交換することにリスクはないのだろうか? ボルトの引っ張り強度の問題など、ちょっと突っ込んだ話題も含めて、キャンバーボルトの核心に迫ってみる。
キャンバーボルトは折れたりしないの?
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キャンバーボルトのリスクについて、J-LINEの氏家研究員に聞いてみたいと思います。
●レポーター:イルミちゃん
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そうですね。純正より細いボルトに交換して大丈夫なの? と心配する人は多いです。
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
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折れたりしないんですか?
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それはよく聞かれる質問ですが、そもそもキャンバーボルトに対しては、ボルトを真っ二つにしようとするギロチンのような力はかかりません。だから折れるという心配は、ちょっと違う。
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ん?
どういうことですか? -
ここで今いちど、キャンバーボルトの仕組みをおさらいしてみましょう。
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仕組みについては、じゃっかん理解があやふやな人が多いと思いますので、ぜひ。私を含めて。
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キャンバーボルトは、ショックとナックルアームを固定するボルト2本のうち、1本を純正より細いボルトに交換することで、ナックルアームを寝かせるという仕組みです。
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意図的にガタを作るんですよね。しかし細いボルトにしたぶんだけ、やはり強度は落ちるのでは?
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重要なのは、2本のボルトのうち1本は純正を使うということです。つまり1本はガタがない。この状況では、上下方向には動かない、ということです。
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前回記事の「キャンバーボルトを取り付ける前に知っておくべきこと」でも教わりましたね。
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仮にボルトを折ろうとするなら、上下方向からギロチンのような力を加える必要があります。でもそういう力はかからない状況なのです。
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ふーむ。言われてみれば、車重がモロにボルトにかかるわけではないし。
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キャンバーボルトには、折れる心配よりも、もう少し別なところにリスクがあります。今日はそれを解説していきましょう。
ショック、ナックルアーム、キャンバーボルトの位置関係
キャンバーボルトの位置がズレる可能性
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1本は純正ボルトのままならば、上下方向には動きようがないのは分かりました。でもキャンバーを付ける方向には動くわけだから、なにかのはずみで戻ってしまう心配はありませんかね?
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それはあり得る話です。走行中にボルトの位置がズレて、キャンバー角が起きてしまった! とか。
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どういう状況でそうなる可能性が……?
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カーブを曲がるときの強い遠心力などでしょうね。アルファードのような重量級の車に対して、細いボルトを使っていたりすると起こりやすくなると思います。
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キャンバーボルトのボルト位置がズレて、キャンバー角が戻ったらどうなるんだろう?
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気づいたら、あれキャンバーが起きてタイヤがハミ出ているぞ、とか。
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意外と気づかないかも?
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でも車高の低い車なら、キャンバー角が起きたことで急にタイヤがフェンダーに当たったりとかするでしょうね。
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そっか。キャンバー角で干渉をかわしていたのなら、当然そうなりますね。
ボルト位置がズレると、キャンバー角が戻ってしまう
細いキャンバーボルトの問題点は何か?
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キャンバーボルトはガタを利用するということは、ボルトが細いほどキャンバー角が付くんですよね?
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ハイ。J-LINEのキャンバーボルトも、太さの違いで「標準タイプ」と「鬼キャンタイプ」の2種類があります。
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細いほうが穴に対するガタが大きくなるから、キャンバー角が付く。
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だけど、あまりに細いのはダメなんです。
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折れる心配がないのなら、細くても良さそうですが?
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折れるうんぬんではなくて、細いボルトでは、強い締め付けトルクがかけられないからですよ。
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締め付けトルクとは?
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ボルトを締め付けるときの力のことです。太いボルトならトルクをかけられるけど、細いボルトだとトルクがかけられない。
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なるほど。
ボルトの太さによって、締め付ける力が違うんだ。 -
そうなんです。そういうのはボルトの規格があって、それによって決まっています。
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へぇ〜。
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ボルトを締め込むことによって、ナックルアームを挟む力が必要です。
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ところが細いボルトだと、この場面で挟む力が不足する。
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あ! 走行中にボルトがズレてキャンバーが起きてしまったりするのは、それが原因なのか。
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そうなんです。
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細いボルトでも思いっきり締め込めば、なんとかなりませんかね?
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それはダメです。そのボルトの許容を越えて締め込むと、ボルトが切れます。
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え〜!!
鉄のボルトが切れるなんて、あり得るんですか? -
生鉄のボルトなんて、意外とカンタンに切れますよ。だからキャンバーボルトに求められるのは、引っ張り強度なんです。
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折れる心配はないけれど、切れる心配はあるってことか。じゃあやっぱりキャンバーボルトにとって、強度は重要なんですねぇ。
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もちろんです。そもそもネジの強度というのは、真っ二つに折られるような強度のことではなく、引っ張り強度で示されます。
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そうなんだ〜。
マニアックながら、重要かつ興味深い話ですねぇ。
標準タイプ
鬼キャンタイプ
✔ キャンバーボルトの注文は、J-LINEのホームページの「CONTACT」または、TEL 022-367-7534
ボルト取り付け中。ハブの上側をドンと内側に押した状態で、締め込む
キャンバーボルトは単なる細いボルト、ではない
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引っ張り強度の高いボルトならば、ガッチリ締めることができます。そこでJ-LINEのキャンバーボルトは、固い焼き入れボルトを使っているんですよ。
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焼き入れボルトとは?
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普通の生鉄は焼いても固くならない。でも炭素が入っている鉄は、焼きを入れるとカチカチになる。金型とかで使う素材なんですが、そういうモノで出来ています。
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なんだかとっても固そうですね。
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だけど固すぎてもダメなんです。ある程度柔軟性がないと、引っ張り強度は出せない。これ以上固くするとかえって危険なボルトになってしまう。
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J-LINEの氏家研究員って、鉄にやたら詳しい。
……鉄フェチ? -
ボルトのアタマに10.9と書いてあるのが強度。SCM435は素材(クロームモリブデン鋼)を示しています。
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ボルトにはサイズだけでなく、強度の違いもクラス分けがあるんですねー。
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そうなんです。
9とか7とか、ボルトに刻印がうってあります。 -
10.9っていうのはスゴイんですか? 10点満点じゃないみたいですが。
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市販されるボルトとしては、一番高強度です。自動車メーカー純正部品には11というボルトも出てきますが、市販のものでは10.9が最高クラス。
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へぇ〜。
そうなんだ〜! -
ネジは太さと強度で、締め付けトルクが決まります。例えばM14(14ミリ)で強度10.9なら、ここまで締め付けトルクをかけられるよ、というのは規格で決まっている。
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太さと強度の掛け合わせなんですねぇ。
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そうなんですよ。ただ細いボルトに換えればいいだけなら、市販のボルトだってサイズさえ合っていればできそうですが……、
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確かに。
ボルトはホームセンターでも買えますが……、 -
それでは危険なんです。引っ張り強度が足りないから、締め込みによってネジが折れる可能性があります。
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キャンバーボルトは単なる細いボルトではない、ということがよく分かりました!
J-LINE製のキャンバーボルト
写真は普通車用のプロトタイプ。ボルトのアタマの10.9の表記が強度を示している。
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