社外エアサス導入ガイド(第13回)
エアサスにも全長調整式があるが、良いかどうかは、人による
全長調整式エアサスのメリットは、より低くできること。しかし街乗りの利便性を重視してエアサスを導入する場合には、必要なのか。調整できる方が良さそうな気もするが、本当にそうなのか。
全長調整式エアサスのほうが低くできるが、「上げたときの車高」も低くなる
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車高調に全長調整式(フルタップ式)があるように、エアサスにも全長調整式があります。
●レポーター:イルミちゃん
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ACCエアサスの場合も、標準モデルのエアランナーに対して、全長調整式のオンザグラウンドがあります。
●アドバイザー:ACC タイソン研究員
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エアランナーに対して、上位シリーズみたいな位置付けでしょうか?
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そうですね。タンクやコンプレッサーなどの部品は共通で、足まわりだけが違う。
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標準的なエアランナーの足まわりは、こんな感じ(↓)なのに対して……
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オンザグラウンドは、ショックのケースがネジ調整式になっていて、全長を調整できます。
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エアサスの場合は、エアバッグへの空気の出し入れで車高を調整できますが……
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そうですね。エアランナーでもオンザグラウンドでも、エアバッグ側のストローク量は同じです。
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では、全長調整式エアサスは何が違うのか?
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基準車高そのものを変えられるところですね。
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エアランナーだと、空気を抜いたところが限界車高。いっぽうオンザグラウンドは、ショックの全長を短くしておけば、もっと低い車高にもできます。
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確かに、エアバッグもペチャンコ+全長も短い状態のほうが落ちますね。
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そのかわり、上げた時の車高も、そのぶんだけ低くはなりますが。
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あ、そうなるのか。
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エアバッグのストローク量は同じで、基準車高を下げるのですから、上げた時の車高も下げた時の車高も、セットで低めになる、ということです。適切なエア圧での走行車高も含めて、下がります。
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ウーム。となると、メリットばかりとは言えないような気も……?
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もちろんそうです。全長調整式エアサスは、より低くできるのがメリットではありますが、当然、デメリットもあります。
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そこを聞いておきたいですねー。
✔ ショックにネジが切ってあり、ブラケット内に落とし込むことで、全長を短くできる。 この構造は、全長調整式車高調とまったく同じ。
調整できるから、調整できないモノより上……というのは本当にそうなのか?
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まず、ACCの標準エアサスであるエアランナーは、ノーマルのタイヤ&ホイールのサイズを基準に、車高を下げきったときに、干渉するギリギリ(※)で下げ止まるように設計しています。
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つまり、エアランナーでも、限界ギリギリの車高まで下がるってことですよね。
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そうです。
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オンザグラウンドだと、基準車高を下げておけば、もっと下がる……。
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そうです。
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……それ、干渉するってことになりませんかね???
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そういうことになりますよね。
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えッ? この話って、そもそもエアサスに全長調整式がいるのか、という気がしてきますけど?
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そこは人によります。オンザグラウンドは、車高にこだわる人向きのエアサスではあります。
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でも「エアサスだけで、低車高が手に入るわけではない」パターンか。
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例えば、タイヤがフェンダーに当たらないようセッティングを工夫したり、タイヤハウスを加工したり、アーム類を交換してアームロックを防ぐ……といったことまでやるなら、全長調整式エアサスの「下げられるメリット」が生きてきます。
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その場合は、固定式のエアランナーでは到達できない域まで行きますね。
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しかし、そういう足まわり加工まではしないし、タイヤ外径もノーマルとそんなに変わらないセッティングだとしたら、全長調整式にするメリットは少ないですね。
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そういうことか〜。
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例えば全長調整式エアサスにして、エアを抜いて車高を下げたときにタイヤがフェンダーにのっかって下げ止まっているような状況だとすると、全長調整を縮めている意味が薄い。
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だったらエアランナーで、干渉の心配なく「プシュー」っと落としにいけたほうが……
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そのほうが、扱いやすいはずですよね。
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「全長も調整できる」というフレーズだけ聞くと、まるでそっちのほうが絶対的にヨイみたいな響きで聞こえますが……
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そんなことはないですね。調整できるってことは、「ちゃんと調整しないといろいろな問題が出てくる」という意味でもあるので。
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それね……。
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調整できないエアランナーのほうは、下げても問題が起きないようにACC側(メーカー側)で考えて、設計しています。
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だからノーマルのタイヤ&ホイールサイズで、干渉する手前ギリギリまで落とせる。
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そうですね。いっぽう全長調整式のエアサスは、セッティングという面では取り付けするショップとか使うユーザーに委ねられるわけです。
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普通のエアサスに比べると、セッティング的には難易度が高めになる?
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ですね。「ポン付けでそのまま乗る」、ということであれば、固定式のエアランナーで十分……というか、エアランナーのほうがいいと思います。
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なるほどねぇ。
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付け加えると、エアランナーなら一時的にノーマルタイヤ&ホイールを履かせても問題はありませんが、オンザグラウンドだと基準車高が下がっている分だけ、干渉してしまう可能性もあります
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総じて、使い勝手の面では、エアランナー(固定式)のほうが上に見えてきます。
※ 車種によって干渉パターンは異なる。タイヤがフェンダー(タイヤハウス天井)に載っかる、足まわりのアーム類が干渉して下げ止まる、など車種によっていろいろだが、いずれにしても、その手前で下げ止まるよう設計している。
本格的な低車高になると、アーム類の交換によって下げ止まりを解消したりする。
足まわり加工までしないなら、全長調整のアドバンテージは僅か
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しかしですねぇ皆さん。ACCのタイソン研究員は、そう言っているわりに、デモカーではオンザグラウンドを使っているんですよ。
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これはいったい、どういうなのか?
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う〜ん、でもエアサスメーカーとしてのデモカーは、やっぱり車高を重視した見せ方になってきますからねぇ。
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ふむ。
デモカーのタイヤ外径は? -
ノーマルとほとんど変わってないですよ。
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だったら、エアランナーでも同じくらい下がるはずでは?
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そうですね。ぶっちゃけ5ミリとか、そういうレベルの差しか出ていないとは思います。
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今まで解説してきた通り、これ以上落とそうとすれば、いろいろ干渉箇所をなくす対策が必要になってきますからねー。デモカーではそこまではしていないので。
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……結論としては、ほとんどの人はべつに固定式のエアランナーでいいんじゃないか、という気がします。
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「全長調整式だからいい」「調整できるほうがいい」という“響き”に流されるのではなく、自分にとって都合の良いほうを選びましょう。
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あと、調整がいっぱいできるタイプは、調整ができるだけにアライメントがぐちゃぐちゃになってしまって、余計大変なことになるというパターンもありますしね。
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……アライメント? そういえば、車高を上げ下げできるエアサスのアライメントってどうなっているんだ??? けっこうグチャグチャなんじゃないの?
ACCのデモカー・30アルファード
足まわりは全長調整式のオンザグラウンド
実際のところ、通常は(オンザグラウンドではなく)エアランナーのほうをオススメしていますよ
DIY Laboアドバイザー:岡本泰三 エアサスメーカー・ACC代表。米国に渡り、ACC USAの立ち上げも実現。本名は泰三(たいぞう)だが、英語圏の人には発音が難しいらしく、US時代に「タイソン」が通称に。そのまま呼び名として定着している。●ACC 住所:兵庫県神崎郡福崎町西田原1512-1 TEL:0790-23-0700 http://www.accincjp.com/
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