>>> J-LINE流 足回り講習╱第1回
ストラット式サスペンションの仕組みと、キャンバー角の動き
難解なイメージがある「足回りの仕組み」を、初心者向きに解説する新シリーズ。第1回めはストラット式サスペンションの仕組みから。キャンバー角が付く・付かない理由も、これでわかる。
ストラット式サスペンションの仕組みを、初心者向きにおさらい
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ストラット式・ダブルウィッシュボーン式・トーションビーム式など、車のサスペンションにもいろいろな方式がありますが……
●レポーター:イルミちゃん
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車高を落としたり、キャンバー角を付けたりするドレスアップカーにとっても、足回りの構造の違いは意外と重要なのです。
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
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そこで! DIYラボ的な足回りの解説シリーズがスタートします。
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まず第1回めのテーマは、一番よく登場するストラット式のサスペンション。これは、多くの車種のフロントで採用されている足まわりですね。
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セダンだと、フロントダブルウィッシュボーン式の車もあります。しかしほとんどの車種のフロントは、ストラット式です。
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ストラットってなんのことですか?
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「ストラット」とは、ショックとバネが一体になっている部分(柱)のことですが……
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このストラットとロアアームによって、タイヤを支えているような構造が、ストラット式です。
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アッパーアームはどこですか?
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ありません。ストラット式においては、ショック自体がその役割を担っているのです。
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そういうことかー。
✔ マクファーソンさんが考えた足回りなので、〈マクファーソン・ストラット式〉とも呼ばれている。
ストラット式
✔ ダブルウィッシュボーンなどと比べると構造がシンプルで、なおかつコンパクトなのがストラット式のメリット。そのためFF車のフロントに採用される足回りとして、超定番となっている。
ストラット式は車高を落とすとキャンバー角は付くの? 付かないの?
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車高を落とすと、ナチュラルにキャンバー角が付く車と、付かない車がありますが……
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そこも、足回り構造で変わってくる部分ですね。
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その点では、ストラット式はどうなんでしょうか?
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基本的には、車高を落とせばキャンバー角が付きます。でも、ダブルウィッシュボーンのような動きとは違います。
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と言うと?
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ダブルウィッシュボーン式は、ロアアームよりもアッパーアームのほうが短いため、キャンバー角が付きます。
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それに対してストラット式は、ザックリ言うとショック(柱)とロアアームしかありません。
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フムフム。
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この場合は、ロアアームが水平になった状態が、最もキャンバー角が付くことになります。
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ロアアームが水平になるのは、車高が落ちた状態?
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そうですね。ノーマル車高だと、外側に向かって下がっていくような角度ですが、車高を落とすと水平に近づきますからね。
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フムフム。
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水平に近づくロアアームによって、タイヤ&ホイールの下部が押し出されるようにして、キャンバー角がつきます。
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ではストラット式も、落とせばナチュラルキャンバー角は付く。
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そうなんですけど、ダウンサスや車高調で少し車高を下げただけでは、そんなに極端なキャンバーは付きません。
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……フム。
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「車高を落とすとキャンバーが付いて、ホイールが内側に倒れる」と思っている人が多いですが……
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そうそう。
そのイメージです。 -
ストラット式だと、思ったほどホイールは内側に入らない。そこで、別の方法でキャンバー角を付けたがる人も多いです。
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ナルホド。
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これには理由がもうひとつあって、一定の車高よりさらに低くしていくと、今度はロアアームにバンザイの角度(※)が付くようになります。
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水平を通り越して、またナナメになっていく?
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そうです。そうすると、今度はタイヤ&ホイールの下部が内側に引っ張られて、奥に戻されるような動きになる。
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……それって、どうなるの?
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キャンバー角が起きてくるってことなんです。
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一度倒れたものが、また起きてくる!
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つまり、ノーマル状態から車高を落としていくと、途中まではナチュラルキャンバーが付く動きになりますが、さらに低車高にすると、逆に起きてくる動きになる。
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ということは、車高に比例してキャンバー角が増えるわけではない……。
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そうなんです。極端に車高が低いと、ハの字どころかソの字のような角度にもなります。
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それはちょっと……。
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キャンバーボルトを入れても、相殺して大したキャンバー角が付きません。
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まあロアアームの長さや最初の角度によっても症状は変わりますが、基本的には、こういう動きです。
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ひとクセある動きだなぁ。「キャンバー角が付く」という人もいれば、「付かない」という人もいるのは、そういう理由なんだ。
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ストラット式は、極端に車高を落とすと、すっかりキャンバー角が起きてくる車種もありますよ。
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フロントダブルウィッシュボーンのセダンのようには、「ハ」の字にならないはずですねぇ。
ダブルウィッシュボーン式
ストラット式のロアアーム
※ アームのバンザイ状態\(^o^)/
アームのバンザイ状態とは、アーム内側(根元)より外側(タイヤ側)のほうが高い位置になることで、外に向かってナナメに上がっていく角度が付く状態のこと。そうなる要因は、低車高だ。
✔ 低車高にした30アルファードのフロントの例。キャンバーボルトを入れて、「ソ」の字を回避している。
キャンバーボルトはストラット式のみに許された手段
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ストラット(ショック&バネ)とロアアームが合流してくる部分に注目。ここにあるのがナックルです。
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柱の役割になっているショックと、ナックルを接合している部分に、ボルトが2本あります。
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ショックの下部を固定しているボルトですね。
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このボルトの1本を交換することでキャンバー角を付けるのが、キャンバーボルトですが、これはストラット式サスペンション専用アイテムですね。
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キャンバーボルトは、ストラット式以外は使えないの?
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使えませんね。ストラット式の構造を利用したようなパーツですので。
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そうだったのか。
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たまにJ-LINEにも「クラウン用やセルシオ用(フロントダブルウィッシュボーン式の車)のキャンバーボルトはないの?」と問い合わせがきますが、それは無理なんです。
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そんなアイテムは、そもそも存在しようがないんだ。
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ですね。それと、ストラット式が採用されるのは基本的にフロントです。「リア用のキャンバーボルトはありますか?」の質問に対しても、「ありません」という回答になりますね。
アッパーマウントによるキャンバー調整も、ストラット式の特徴
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ダブルウィッシュボーン式の足回りでは、できない?
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できません。ダブルウィッシュボーン式の場合は、車高調の仕組みでなんとかキャンバー角を付けようとしてもできないんですよ。
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それはなぜ?
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タイヤを支えているのは、アッパーアームとロアアーム。この2本のアームで支え、ショックはその間で、上下の動きを吸収するのみだからです。
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それが、ストラット式だと……
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アッパーアームがない。その代わりに、ショックとロアアームでタイヤを支える構造です。
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だから、ショックの角度が傾くと、タイヤにも角度が付くことになります。
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それが、アッパーマウントのキャンバー調整なんだ〜。
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そうなんです。それに対して、ダブルウィッシュボーンで意図的にキャンバー角を付けようとするなら、アームに手を入れるしかないですね。
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足回りの構造の違いって、いじり方にもモロに影響を与えているんですね。
車高調のアッパーマウントの調整でキャンバー角を付けたりするのも、ストラット式ならではです
ストラット式の足回りの、ショックとハブ(タイヤ)の関係。
DIY Laboアドバイザー:氏家淳哉
リアアクスルキットで有名なJ-LINE(Jライン)。足まわり加工に長けたプロショップでもあるので、直接クルマを持ち込めば様々なワンオフ加工も依頼できる。深い知識・高い溶接技術は比類ない。●J-LINE TEL 022-367-7534 住所:宮城県多賀城市町前1-1-13
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