>>> J-LINE流 足回り講習(第2回)
トーションビーム式とは? その仕組みとセッティングの注意点
トーションビーム式の車をドレスアップするなら、その仕組みを知ると非常に有効な強みになる。理想に近いセッティングを叶えるために、ぜひとも理解しておきたいところなので、初心者向きに詳しく解説する。
トーションビーム式の仕組みを初心者に優しく解説
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〈J-LINE流 足回り講習〉の続き。前回はストラット式についてでしたが、今日はトーションビーム式です。
●レポーター:イルミちゃん
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トーションビーム式は、リアの足回りでは超定番ですね。
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
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そうですね。フロントがストラット式、リアがトーションビーム式という組み合わせの車は多いですね。
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Jラインがアクスルキットをやり始めた当時は、リアが3リンク式の車もいっぱいありましたが、今は少ないですね。ワゴンRもトーションビーム式になったし。
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トーションビーム式と3リンク式は、どう違うんですか?
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3リンク式の足回りは、左右輪を1本の車軸(アクスルビーム)でつないでいました。
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車体とつながっているのは、前方向からの伸びてくるスイングアーム(左右にある)です。
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でも前後方向の支えだけだと、横ブレしてしまう。横方向を支えるために、ラテラルロッドが付いていました。
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スイングアーム2点とラテラルロッドを合わせて、3点で車体とつながっているから「3リンク式」です。
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ナルホド。
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ただ、リンク式の左右輪をつないでいるのは、あくまでも1本の棒(アクスルビーム)です。だから左右輪が独立して上下する動きはできませんよね。
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独立懸架の足回り……例えばダブルウィッシュボーン式などは、1輪ずつ上下に動けるため、追従性が高い。しかし1本の棒で左右輪がつながっていたら、お互いに影響を受けてしまいます。
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あの〜、見た目だけだとトーションビーム式も1本モノで、リンク式と似ているような気がしますが……?
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これも、1本の横棒で左右輪をつないでいますよ?
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そうなんですが、トーションビーム式の横棒(クロスビーム)はねじれて、しなやかに動くんです。路面状況に対応して、ある程度は、左右が独立した動きをします。
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独立懸架の足回りのような動き……?
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リンク式に比べれば、独立懸架の足回りに近づいた感じですね。
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J-LINEのリアアクスルキットを例に足回りを比べても、形状が全然違います。
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3リンク式は、カンタンに言うとタイヤ&ホイールの位置に車軸がつながっていて、タイヤといっしょに同じだけ、上下に動くことになります。
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この場合は、車軸であるアクスルビームの上下の動きも大きくなるので、あまり可動させるとすぐに車体側のフレームにぶつかってしまいます。
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フーム。
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だから3リンク式は、構造的に足回りをあまりストロークさせられないのです。
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トーションビーム式は?
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同じ横棒でも、タイヤより前寄りの位置にビームが付いているタイプが多いんですが……
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前のほうから伸びてくる2本の腕(トレーリングアーム)がタイヤを支えていて、その途中に、横棒(クロスビーム)が付く仕組みです。
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だから、アクスルキットもH型になっているんですね。
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まあ、トーションビーム式=全部がH型とは限りませんが、タイヤ位置に対して、だいたい前のほうにビームがある構造が多いから、ほとんどの車はH型になりますね。
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そうすると何が違うのでしょうか?
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タイヤよりも支点に近い場所にビーム(クロスビーム)があるぶん、タイヤの上下の動きに対してビームが上下に動く量が少ないのです。
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フムフム。
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さらにビームのねじれによって左右がある程度、独立して動く。この構造なら、ビーム自体が上のフレームにドンとあたることはそうそうない。
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ということは、ストローク量も増やせるってこと?
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そうなんですね。バネもショックも長く作りやすくなって、乗り心地も良くなる。
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なるほど、なるほど。
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3リンク式も、前から腕(スイングアーム)が伸びてきてアクスルとつながる点では似ていますが、部品点数も多いし(スイングアーム・アクスルビーム・ラテラルロッド等)、ストロークは稼げないし……。
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それに比べると、トーションビーム式は一体型で、部品点数も少ないですね。
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そうなんです。コスト面と機能面のバランスが良いから、採用する車が多いんでしょうね。よく考えられた足回りと言えます。
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……と、ここまでは足回り自体の解説でしたが、DIYラボ的には、本題はここからです。
✔ FF車の後輪の足回り形式としては、トーションビーム式が主流になっている。
写真はJ-LINEリアアクスルキットのMH23ワゴンR用。
ラテラルロッドが車体側とつながる
✔ サスペンション構造は、大きく2つに分けられる。一つは左右輪が独立して動ける「独立懸架(どくりつけんか)」で、もう一つが「車軸懸架(しゃじくけんか)」だ。リンク式は、車軸懸架の足回り。
トーションビーム式
✔ トーションビーム式は定義上は「独立懸架」と分類される場合もあれば、「車軸懸架」と表記される場合もあり、メーカーによって考え方が異なる。そういう意味では中間的な存在となっている。
3リンク式
トーションビーム式
写真は30プリウス用(50系からは独立懸架のダブルウィッシュボーン式に移行した)
トーションビーム式は太いホイールは履きにくいし、ツライチは無理がある
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仕組みは分かったけれど、だからどうなのか? ここからは、トーションビーム式の足回りの車をドレスアップする人向けの話です。
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まずキャンバー角の変化の話ですが、トーションビーム式にしろ3リンク式にしろ、車高を落としてもナチュラルキャンバーは付きません。
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ずーっと0度?
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いや。純正で僅かにキャンバー角は付いている車種が多いですが、車高を落としてもそれが変化しないのです。
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車高によるキャンバー変化がないということは、車体が沈み込む場面でも、タイヤ&ホイールが真っ直ぐ上に向かいますから……
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……どうなるの?
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太いホイールをギリギリで履いたり、外側に寄せてツライチ気味に履かせていると、干渉してしまいます。
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前半とは打って変わって、これは巨大なデメリットだ!!
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基本的には、1本の横棒で左右輪をつないでいる足回りの、宿命みたいなものですね。
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その点は、3リンク式と変わらないんですね。
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そうですね。例えばセダン系の人はツライチにこだわる人が多いじゃないですか。
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ツライチといえば、セダン系。
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セダン系が採用するダブルウィッシュボーン(あるいはその進化版のマルチリンク式)のように、アッパーアームとロアアームでタイヤを支える足回りは、(アッパーアームが短いせいで)車高を落とすとキャンバー角がつきます。
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キャンバー角がつくため、ホイールをツライチで履いていても、内側に倒れながらフェンダーをかわせます。
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だからツライチにできるんだ。
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そうなんです。セダンのツライチイメージは、それが構造的にも可能だから……なんですね。
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同じような履き方を、トーションビーム式でやるのは難しいんですね。
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そうですね。トーションビーム式でホイールをツライチにしようとすれば、バネレートの高い(固い)バネに交換して足回りをガチガチに固めたり……
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動かないようにしてしまう。
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あるいは全長調整式ショックなら、それを長めに調整して、ホイールが干渉する前にバンプタッチさせるといった手法しかありません。
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どっちも、乗り心地が悪くなる方策ですね……。
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ですよね。乗り心地を考えるなら、足回りはストロークさせなければいけない。つまり、沈み込んだ時にも当たらないように、ホイールを内側に入れる(ツラウチ)しかないのです。
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これだけ見ると「こんなに低車高にしなければ、もっとツラが出せるでしょ?」とも思われますが……
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そうでもないのです。沈み込んでも当たらない仕様を作ろうとすれば、ホイールのツラは内側に入れるしかないのがトーションビーム式です。
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なるほど。
走行中は上下に動くから。 -
いっそ低車高にするなら、ツラウチでも(フェンダーをカブせるので)見た目のバランスは取れますが、「車高はあまり低くしないで、ツライチにはしたい」仕様が、一番セッティングが悩ましい。
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……と言いますと?
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車高が高めだと、ツラウチでは不格好に見えるからです。「車高をそんなに下げないんだから、もっとツラを出せるでしょう?」って考える人が多い。
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あー。
J-LINEがよく突っ込まれるやつだ。 -
でも、沈み込むときに、タイヤ&ホイールがまっすぐ車体に近づいていくトーションビーム式(それと3リンク式)では、走行車高に合わせてツラを出す、というわけにはいかないです。
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ダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式の、セダンのツライチをうかつにまねると……
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ホイールやフェンダーが傷だらけになりますよ。
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それがトーションビーム式、ということなんですね。
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これは良いとか悪いの話ではなくて、車の足回り特性に合わせていじるしかない、という話ですけどね。
✔ トーションビーム式の足回り。J-LINEのリアアクスルキットでキャンバー角が付けられる(↑)のは3リンク式と同じだが、ローダウン量にともなって増えるわけではない。
ツラウチの30プリウス(トーションビーム式)
DIY Laboアドバイザー:氏家淳哉
リアアクスルキットで有名なJ-LINE(Jライン)。足まわり加工に長けたプロショップでもあるので、直接クルマを持ち込めば様々なワンオフ加工も依頼できる。深い知識・高い溶接技術は比類ない。●J-LINE TEL 022-367-7534 住所:宮城県多賀城市町前1-1-13
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