車検に通るデイライトの条件╱「協定規則 第87号」の重圧
保安基準の改正で、デイライトの新ルールができた。見方によっては「爆光デイライト解禁!?」……と期待された向きもあったが、話はそう単純ではない。もともと欧州発祥のデイライト。車検に通るデイライトの条件と、欧州の規格・Eマークは無縁ではない!?
デイライト後付けに重くのしかかる「協定規則 第87号」の存在
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前回、デイライトの新基準についていろいろ教わりましたが……市川研究員が最後に水を差しました。
●レポーター:イルミちゃん
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この法改正が「社外デイライトの後付け」という点に対しては、あまり追い風になっていない、という話のことですね。
●アドバイザー:IPF 市川研究員
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いったい、どういうイミでしょうか?
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2016年10月のデイライトの保安基準改正に関しては、ベースにあるのが欧州の規格なんですよね。
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日本とは違って、欧州はもともとデイライトが義務ですもんね。
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欧州のDRL(デイタイム・ランニング・ランプ)規格がもともと存在している中で、「そこに日本も加わった」という感じの流れなんです。
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自動車メーカーにとっては、良い話なのは間違いないですね。今後は今までより明るく作れるんだから。
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ですね。
しかし、後付けは…… -
アフターパーツ市場にとっては、「爆光デイライト解禁」という風には受け取れないの???
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前回、デイライトの保安基準上のルールを説明しましたが、実際のルールはそれだけではない。製造するメーカー側に課せられた条件は、他にもいろいろあります。
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と言いますと?
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早い話、デイライトを作る上での技術的な要件は、「協定規則 第87号」にのっとることになっているんです。
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キョウテイキソク第87号……?
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欧州でのデイライトに関する規則を、日本の保安基準上で表したコトバなんですね。87号というのは欧州の規格である、EマークのR87(※Rはレギュレーションの略)と共通しているんですよ。
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ムムム。
Eマークの話が出てくるのか。 -
要するに保安基準上の「協定規則」は、欧州ルールのことで、Eマークを取得するための条件と同じってことです。
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保安基準は日本のルールだけど、「デイライトは欧州ルールに準拠してね」ということ?
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そうですね。だからいろいろなところで「協定規則 第87号」が出てきます。
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まさか、Eマークを取得したデイライトでないと車検に通らない、とか?
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Eマークが必須、とまで言っているわけではないんです。しかしデイライトに関しては、「日本の車検とEマークは直接的には関係ない」と切り離すのも難しい事情がある。それを次に説明しましょう。
✔ ひとくちメモ
●以前は、日本にデイライトの規定がなく、「その他灯火類」の枠組みに入っていたため、明るさは300カンデラ以内というしばりがあった。●そのためベンツ・BMW・アウディなどの欧州車は、日本仕様だとコーディングでデイライトの明るさを下げる必要があった。
●2016年10月の法改正によって、日本国内でも欧州仕様のデイライトで、そのまま大手を振って走れるようになった。
Eマークのないデイライトの扱いは?
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保安基準上では「協定規則 第87号に基づいて認定された昼間走行灯については、型式指定を受けた装置(つまり純正)と見なす」とあります。
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……今の部分、思わずとばし読みした人に向けて、もっとカンタンに言うと?
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つまりEマークを取得したデイライトなら、(純正でなくても)デイライトとして認めますよ、という意味です。
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……Eマークを取得していない社外品のデイライトは、車検NGと言ってるようにも聞こえますけど?
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そこまでハッキリは言ってませんが、灯体がEマークを取っていない場合は、「Eマークが取れているランプ(純正)と同等の性能を有していること」が条件になります。
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同等の性能とは、前回教わった例の「1440カンデラ以下」とか、面積とかそういう話?
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いや。単に明るさ、面積だけではないんです。Eマーク取得と同等の性能ということなら、配光パターン(※)なども含めて、実に細かなルールがあります。
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明るさの面だけでも、単純に400カンデラ以上1440カンデラ以下なら何でもいい、ということではないんです。
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大変なんですねぇ。
Eマークを取るのって。 -
ちなみに純正部品はすべてEマークを取得しているので、純正デイライトは完全にその基準を満たしています。
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そして、社外品の場合は、その純正と同等の性能を有していることを証明しないといけない。
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メーカーがEマークを取得しておいてくれれば、証明になるんですね。
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しかし、Eマークを取得していない製品を付けたユーザーが、万が一車検の時に「Eマーク同等の性能を有していることの証明」を求められても、どうするの? という話になる。
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そんなの現実的じゃない!!
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ね。つまり、ユーザーとしては、保安基準を満たす取り付けはできても、デイライトとしての証明が難しいんです。
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ぐむー。
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そして欧州基準のデイライトの要件を満たす光り方、配光パターンなどは、車検場で検査員が判断できるようなものではありません。
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ということは、それが通ってしまう可能性もある?
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通らない可能性もありますし。
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そりゃそーだ。
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つまり、確実に車検に通すには、デイライトとしての信用性を示すEマークが、実質的には必要になるというのがIPFの見解(※)です。
※IPFは、業界でも特にマジメで固いメーカー。
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では例えばテープLEDを、保安基準にそって正しい位置にペタリと貼って、デイライトとして認めてもらうのは……
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ほぼ不可能な話でしょうね。
✔ ひとくちメモ
●あまり知られていないが、対向車を幻惑しないようデイライトにも配光の決まりがある。●決められたポイント毎に細かく明るさが指定され、光の出方や分布まで決まっている。Eマークを取得するための技術基準のひとつ。
Eマークを取得したデイライトであれば安心だが…
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いずれにしても、Eマークを取得したデイライトのほうが安心なのは確かですね。
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無論、デイライトとしてEマークを取得した製品なら、前回触れた取り付け位置などに注意すれば、車検はまったく問題ないことになりますが……
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……なるほど。市川研究員のテンションが低かったのは、そういうことなのね。
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今回の保安基準の改正は、どちらかというと、自動車メーカーのデザインの自由度を高めるための変更という風にとらえておいたがほうがいいですね。
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後付けがやりやすくなる、という話ではないんだ。
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そうですね。例えばカスタマイズの世界でも、86前期の海外モード解放(※)のような類の技であれば、保安基準適合になるので朗報と言えますが。
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こういう技(↑)には、追い風と言える。
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でも、いわゆる一般的な後付けデイライトにとっては、「正直やりにくい」というのが現実なのです。
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……あのう。個人的な話ですが、私、先日テープLEDを使って、デイライトを自作したばかりなんです。でもコレ、車検でデイライトと認めてもらえないんですね。
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まあ、そうなりますね。
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じゃあ、もう剥がすしかない。がっくり。
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ちょっと待ってください。剥がさなくてもいいと思いますよ。
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え? どういうこと?
※「車検に通るデイライトの条件(番外編)」に続く。
✔ ひとくちメモ
技術的にEマークが取得できるメーカーでも、実際に取得するとなると莫大なコストがかかる。現状の後付けデイライト市場に対して、そこまで対応するメーカーがどれだけ出てくるのか、という話になる。※海外仕様向けに隠されたデイライト本来のパワーを解放する技のこと。やり方は「86前期の純正LEDスモール(ポジション)をデイライト化する方法」参照。
社外品のLEDヘッドライトバルブを選ぶときの重要な注意点についてはDIYラボ〈動画部〉がYouTubeでも解説しています。
DIY Laboアドバイザー:市川哲弘
LEDやHIDバルブでお馴染みのIPF(http://www.ipf.co.jp/)企画開発部に所属し、バルブ博士と言ってもいいほど自動車の電球に詳しい。法規や車検についても明るく、アフターパーツマーケットにとって重要な話を語ってくれる。
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