タイヤハウス加工(叩き上げ・切り上げ)の真の目的とは?
低車高にして、タイヤがタイヤハウスの天井に当たってしまった! そんな時「タイヤハウスを加工する」手があるが、タイヤハウスの叩き上げ、切り上げとはいったいどんな加工なのか。また、干渉回避以外の意外な効果も解説。
タイヤハウスの叩き上げと切り上げの違い
-
よく「タイヤハウスを加工する」って言いますが、アレはいったい何をしているのでしょうか?
●レポーター:イルミちゃん
-
タイヤハウスの天井にタイヤが当たるので、当たるところを叩く(叩き上げ)か……
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
-
それでも足りなければ、切り上げるんです。
-
切り上げ…?
-
いったん天井を切って、もっと高い位置で再溶接し直すんですよ。
-
ほー。
-
タイヤハウス内の天井は、もともとキレイなアーチ型とは限りません。出っ張っている部分などがあって、そういう部分にタイヤが当たりやすいんです。
-
キレイなドーム型でははないのか。
-
それをキレイなドーム型の天井に近づけながら、高さを上げるイメージですね。
-
この時、J-LINEでは内部をカクカクさせずに、キレイなアーチ状で製作するのがコダワリだったりします。
-
見えない場所ですが、そのへんは加工職人のプライドみたいな?
-
タイヤハウス側の見た目もありますが、室内側への影響の仕方も変わってくるんですよ。
-
……室内側?
なにか関係があるんですか? -
もちろんです。天井を切り上げると、室内側にも影響が出るんです。
-
それは、どんな影響?
-
室内側からすると、鉄板が出っ張ることになるので、内張りを切ったりしないといけなくなります。
-
けっこう大変な話なんですね……。
-
そしてこの手の加工は、意外と室内側は切りっぱなしで、鉄板ムキ出しなことも多い。
-
それはそれでスパルタンだから……かな。
-
しかしJ-LINEでは、室内側の処理をできるだけ自然に見せるようにしています。
-
この部分(↑)は、FRPで作っているんですよ。
-
……これは自然!
内張りまで、ワンオフ製作しているようなものですね。 -
できるだけ加工跡を出さないための工夫です。で、こういう処理のことまで考えると、タイヤハウス側はできるだけキレイなアーチ型で製作するのが望ましいのです。
-
なるほどね〜。
切り上げればいい、というものではない。
そもそもタイヤハウスの天井切り上げの目的は何か?
-
ところで、そもそも「なぜタイヤハウスの天井切り上げまでやるのか」っていう話なんですけどね。
-
え!?
タイヤが当たるから、なのでは? -
それはそうなんですが、例えば「ハンドルを切った時に、タイヤが当たる」のは、よくある事例じゃないですか。
-
定番ですね。
-
これは、タイヤハウスのインナー加工で解決する問題ではありません。
-
フムフム。
-
以前、「低車高でハンドル全切りできない! そんな車に効くワザ」の記事で解説しましたが、車体を加工するというよりは、タイヤサイズの見直しなどが優先です。
-
今どきは、外径を小さくできるタイヤサイズが充実しています。車体側を加工しなくても、シャコタンが作れる時代になったんですね〜。
-
……アレ? とかなんとか言いながら、J-LINEではタイヤハウスの天井を切り上げている。ムジュンしてませんか?
-
これはね、話が別モノなんですよ。
タイヤ外径を小さくする
車高が低くても乗り心地の良い車作り
-
まず、J-LINEでタイヤハウスの切り上げ加工までやるのは、主に軽自動車の話です。
-
アルファードとかでは、同じように車高が低くても、切り上げまではしません(↓)
-
そうだったのか。
-
軽自動車は、もともと小さいのに室内の空間をできるだけ確保する設計になっている。そのため、タイヤハウスが狭いのです。
-
見えないところにしわ寄せがいく。
-
そのわりに軽自動車のカスタムの世界って、けっこう車高を低くする人が多いでしょう。
-
(……それはJ-LINEのせいでしょうね、というツッコミは横に置いておこう)
-
目安として、車高調+標準仕様のJ-LINEアクスルの組み合わせなら、切り上げまではしなくてもいいんです。
-
この位(↑)なら、多少タイヤが当たる部分が出てきても、叩き上げで対応できます。
-
では、切り上げる車って?
-
例えばワゴンRなら標準ダウン量は5センチですが、オーダーで7センチダウンが選べたりします。
-
あ。
カブりました〜! -
こういった低車高スタイル(↑)になってくると、タイヤハウスの天井切り上げとかまでやらないと、キツくなってくるのです。
-
……なるほどね。
-
あとは、単に低くするだけではなく、できるだけ乗り心地の良いシャコタンを作るためにタイヤハウスを加工するんですよ。
-
乗り心地???
そんなの関係あるの? -
単にタイヤが当たらないようにするだけだったら、「当たる前に止めてしまえばいい」という考え方があります。
-
つまり、タイヤが天井に当たる前に、先にバンプタッチするように足回りをセッティングすれば、切り上げる必要なんてないわけですよ。
-
……それができるなら、なぜ切り上げる!?
-
そういう車の作り方は、乗り心地が悪いからです。
-
あー!
-
乗り心地を良くするためには、足回りをいかにストロークさせるか、です。
-
フムフム。
-
特に、元からストロークの少ない軽自動車を極端なシャコタンにすると、「ストローク量が1センチ2センチしかない!」(↓)みたいな事態になってしまう。
-
当然、乗り心地が悪いです。
-
シャコタンなんだから当然。ガマンするしかない、という話ではなくて?
-
それは、車の作り方でずいぶんと変わります。例えば天井の切り上げ加工をやって、それで何センチ上がるかと言えば、たぶん2〜3センチ位の話なんですけど……
-
2センチしかストロークできない状態から、4〜5センチストロークできるようになったら、乗り心地はまるで別モノになりますから。
-
そういえばJ-LINEのデモカーって、ベタベタなのに乗り心地がいいですよねぇ。
-
タイヤハウスの天井切り上げは、「低い割には乗り心地の良い車」を作るためにやっていることなんです。
タイヤハウス切り上げを検討する例:ワゴンR
車高調+J-LINEアクスル(標準ダウン量)
車高調+J-LINEアクスル(7センチダウン)
バンプタッチ!
もともとストロークの少ないワゴンRの例。バンプラバーを切るのもストローク量回復のため。
それをショックのストローク量に還元すると大きい
DIY Laboアドバイザー:氏家淳哉
リアアクスルキットで有名なJ-LINE(Jライン)。足まわり加工に長けたプロショップでもあるので、直接クルマを持ち込めば様々なワンオフ加工も依頼できる。深い知識・高い溶接技術は比類ない。●J-LINE TEL 022-367-7534 住所:宮城県多賀城市町前1-1-13
関連記事
- インナーカバーにタイヤが当たって穴が開く前に、できること
- ホイールとフェンダーが当たらないツラウチの極意
- わざとバンプタッチ(フルバンプ)させれば限界車高が分かる
- バンプラバーをカットする(切る)前に知っておくべきこと
- バンプラバーの正しい切り方(カットする長さ)とは?
- タイヤハウスの天井は叩くべきか? 叩かぬべきか?
- 燃料パイプ加工とは? ワンオフ製作や自作のリスクは…
- マフラー位置を上げる加工とは? どの位の車高で必要なのか?
- エンジンマウント上げ加工でオイルパンを守るべき車とは?
- アクスルのローダウン量を決める前に知っておくべきこと
- 軽自動車は車高調+アクスルでどの位ローダウンできるか?
- アクスルを車検に通すには? / 構造変更のやり方
- 中古のリアアクスルを活用すれば、安くJ-LINEアクスルが買える