ショックアブソーバー調整方法、リアは手強い
ショックアブソーバーとバネが別体のリア(トーションビーム式や3リンク式)の場合、リアショックの全長調整は、なかなか手強い。しかし仕組みを理解してこの調整方法を実行すれば、「低い割に乗り心地のいい車を作る」のも夢ではない!
リアショック全長調整は車高のためではない!?
-
今日は、バネとショックアブソーバーが別体になっているリア(トーションビーム式や3リンク式)の、ショックの全長をどう調整するべきか、という話です。
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
-
同じ車高調でも、フロントとリアは事情が違うんですよね。
●レポーター:イルミちゃん
-
今どき主流の全長調整式(フルタップ式)車高調は、フロントはショックの全長調整で車高が落ちるので、分かりやすい。でも、リアショックは違います。
-
リアショックも、全長調整できるようになっているタイプは多いですよね?
-
そうなんですが、バネとショックが別体になっているリアの場合は、ショックアブソーバーの全長で、車高をコントロールするわけではありません。
-
それを知らずに、全長を縮めまくっている人がけっこう多いという話がありましたね。
-
リアショックを全長調整する意味合いは、車高ではないんです。
ショックアブソーバー全長が長すぎると底付き
-
それでは調整方法を解説します。今回は、バンプラバーがショックの内部だけではなく、外(フレームとリアアクスルの間など)にも付いている車の場合。
-
バンプラバーの付き方によっても、事情が変わるのか。
-
なお大前提として、ショックアブソーバーのストローク量はできるだけ確保したい、というのがあります。
-
ストロークが多いほうが、乗り心地も良くなるし!
-
そうなんですけど、ではリアショックが長ければ長いほどいいのかというと、そうではない。
-
でも、リアショックで車高が決まるわけではないんですよね?
-
そうですね。
-
じゃあ、リアショックを長くしてもイイのでは? それで車高が上がってしまうこともナイならば。
-
ショック全長が長すぎた場合のデメリットもありますよ。
-
それはどんな?
-
ショック全長が長すぎると、バンプタッチする前にショックが底付きすることになる。これは乗り心地も悪いし、車高も下げ止まってしまう。
-
あれれ!?
短くすると、底付きするのかと思ったけど? -
逆ですね。この場合は、ショック全長を長くし過ぎると、内部ストロークとしては底付きしやすくなります。
-
ほほぅ。
メモっておこう。
モデル車はMH34ワゴンRのリア
リアショック調整方法。まず最初にやること
-
今回はフレーム側にバンプラバーが付いている車のケースでのやり方になるんですが、この場合はまずバンプラバーの処理が先になります。
-
今日の記事は、ようするに上の記事(↑)の続きですね。
-
上の記事で紹介したやり方で、「タイヤがタイヤハウス天井に当たる前に、バンプタッチして止める」ことが可能になります。
-
そこまでは、前回できました。
-
ところがショックを長くし過ぎると、先にショックが底付きしてしまう。で、バンプタッチまでいかないのです。
-
それでは……せっかくのバンプラバーのセッティングが、無駄になる。
-
だからショックの長さを決める上で、最初にやるべきことは、「これ以上ショックアブソーバーの全長を長くしてはいけないライン」を見定めることです。
-
しかしこれ以上伸ばしてはいけない……って、どうやって分かるんだ?
-
まず、今のフルバンプした状態で、ショックアブソーバーの縮み側ストロークの余地がどの位あるかを見てみます。
-
見てみるって……。
内部のストロークなんて見えませんよ? -
ショックのカバーがあるから見えない。でもこのカバーを手で押し下げると、奥にロッド(シャフト)が見えます。
-
あ、ホントだ。
棒が見える。 -
このロッドの先に、ショック内部のピストンが付いているんです。
-
ほー。
なるほど。 -
けれど、今の状態で、このロッドがたくさん露出して見えるのは、もったいないんです。
-
ロッドが見えるともったいないとか……意味不明ですが。
-
ロッドがいっぱい見えているってことは、縮み側にストローク余地がそれだけあるということなんですよ。これが縮みきって、ショックの中にあるバンプラバーにタッチする(底付きする)ので。
-
余力があるって、いいコトなのでは!?
-
いやいや。
今はフルバンプ状態なんですよ。 -
それが何か?
-
走行中にバウンドしても、もうこれ以上車高が下がることは、物理的にあり得ない、という状態なんです。
-
ということは……、
-
この時点からの縮みストロークは、あっても役に立たない。もうこれ以上、ショックも縮まないんだから。
-
そういうことか!
-
もともとのショックアブソーバーが長く、ストローク量が大きい車種はまだいいんです。でもワゴンRみたいな短いショックは、1センチも無駄にはできないんです。
-
なるほど、なるほど。
-
フルバンプさせた状態で、ショックのほうも縮みきる一歩手前ぐらいまで来ている。それが、一番理想的なのです。
ショック全長を伸ばしていい限界を探る
-
フルバンプ時にショックのほうも合わせて、縮みきる寸前まで来ればいいという理想論は分かりましたが……
-
分かってもらえましたか。
-
具体的には、どうするんですか?
-
リクツが分かれば簡単。今のロッドが見えている状態からなら、ショックの全長を伸ばしていけばいいのです。
-
ショックの全長を伸ばしていきます。すると先ほど見えていたロッドが、だんだんショックの中に入っていきます。
-
カバーを押し下げて見える、ロッドの量が減っていくんですね。
-
つまり内部ストローク的には、縮んでいってる状況です。
-
なるほど。
-
行きすぎればショック側のバンプラバーがバンプタッチ(底付き)してしまいますが……、
-
そこまでいったら、ダメなんですね。
-
そうですね。その手前までは、ショック全長を伸ばしていきます。
-
というわけで、「あとちょっとでショックが縮みきるよ」的な状況(↑)になりました。
-
カバーを押し下げても、シャフトがチラっとしか見えませんね。
-
で、フレーム側がフルバンプ状態。コレなら、これ以上は縮まない。すなわち底付き寸前で止まるってことです。
-
なるほど〜。
じゃあ、この長さならオッケーか。 -
誰がそんなこと言いましたか。
-
あれ? フライング?
-
これはまだ仮の段階。あくまでも、「これ以上、ショックアブソーバーの全長を長くしたらダメよ」(底付きするから)というラインに過ぎません。
バネが遊ばない程度に縮めて完成する
-
最終的なリアショックアブソーバーの調整は、バネを入れてから決めるんです。
-
そういえば……バネは抜いた状態でしたね。
(※フルバンプ状態を作るため、リアバネを抜いた状態でセッティング中)
-
さっき、「これ以上、ショックを長くしたらダメだよ」というポイントが割り出せましたよね。
-
ハイ。
-
それはどこかしらを基準に、長さなどを測って、メモしておきます。
-
メモメモ。
-
これ以上長くしてはいけないラインは、分かりました。
-
で、この状況から短くするぶんには、いいわけですよ。
-
長くするのはダメだけど、短くするのはいいと。
-
だからバネを入れた段階で、もしバネが遊ぶ(ガタつく)ようなら、遊ばない程度まで縮めていきます。
-
バネが遊んでいるのは、そもそもアウトですもんね〜。
-
そして、バネの遊びがなくなって「ちょっとだけプリロード(バネを縮める力)がかかり始めたかな〜」ぐらいのところがオススメです。
-
ギュウギュウに、プリロードをかけなくていいんですね。
-
そこはまあ、好みもあります。固いほうが好みなら、ちょっとプリロードかけておけばバネも固くなるので。
-
Jラインは、あまりかけない派ですね。
-
この手の足まわりは「もう、バネが遊んでいなければいいかな」という感覚でやるのがいいと思います。言い方はアレですけど、それ以上こだわってセッティングするようなタイプの足まわりでは、そもそもない。
-
まー、確かに四輪独立の足まわりとは違いますよね。
-
ちなみに、ショック全長を縮めていく分には底付きはしませんけど、縮め過ぎると反対に「走行中に伸びきり」の可能性が出てきます。
-
底付きの逆ですね。
-
そうです。それは鉄と鉄の衝突だからゴンゴン、ガンガンひどい異音が出ます。
-
ひええ。
底付きも伸びきりも、どっちもイヤだ。 -
そうですよね。だからショックは縮む余力と伸びる余力の、両方を持っていないといけないんです。
-
なるほど、なるほど。
-
まとめると、まず「これ以上長くしてはダメ」なラインを見定める。それを基準に、あとはバネに合わせて、遊ばない程度に最小限短くする。そんな手順がオススメです。
-
ちょっとややこしい話でしたが、ローダウンして低い割には乗り心地のいい車って、こうやって作られているんですね〜。
ブラケット(筒)下部からの、ショックの出っ張り具合で測っておく、という手もある。そうすれば全長を動かしても、またもとの全長に戻せる。
バネが遊ばない程度に、ショック全長を縮めたところ。
DIY Laboアドバイザー:氏家淳哉
リアアクスルキットで有名なJ-LINE(Jライン)。足まわり加工に長けたプロショップでもあるので、直接クルマを持ち込めば様々なワンオフ加工も依頼できる。深い知識・高い溶接技術は比類ない。●J-LINE TEL 022-367-7534 住所:宮城県多賀城市町前1-1-13
関連記事