リアショックの全長調整でやりがちな失敗
トーションビーム式やリンク式など、バネとショックが別体の足まわりでは、リアショックの全長を縮めても車高が落ちるわけではない。これを知らずに、「車高調を付けたけど思ったほどリアが落ちきらない」という理由でショック全長を縮めると、ショックの伸びきり(底付きの逆)でガンガン、ゴンゴン異音が出ることも。
ショックの全長調整を縮めて落とそうするのはNG
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以前の記事で、「軽自動車が車高調だけでは落ちきらない理由」を説明しましたが……、
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
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ワゴンRなどのスズキ車の3リンク式(リア)は、特に落ちないという話でしたね〜。
●レポーター:イルミちゃん
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ところが「車高調を付けても思ったより下がらない」という時に、全長調整式の車高調を組んでいる場合はショックをとにかく短くしようとする人がいます。
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でも全長調整式の車高調は、ショックの全長調整で車高を落とすものなんだから、当然では……?
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フロントはショックの全長調整で車高を落とす、というやり方でいいんですが、リアはそれとは事情が違う。
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と言いますと?
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3リンク式やトーションビーム式などの足まわりは、リアはバネとショックが別体になっていますよね。
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こういうタイプの足まわりでは、リアの車高を決めているのはあくまでもバネ(スプリング)です。
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そういえば……リア車高を変えたいときは、バネに付いているアジャスターで調整しますね。
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そうですね。……まあ、それでも落ちきらないっていう話なんですけどね。
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スプリングシートを全下げにしても下げ足りず、次はショックも縮めてやるー!ってなるわけだ。
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しかしそれは、セッティングとして間違い。
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そもそも、そのやり方で下がるんですか?
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徹底的にショックを縮めて、バネにプリロードをガンガンにかけてバネも縮まれば、物理的に少しは下がるでしょうけど……かなり無理矢理なやり方です。
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乗り心地悪そう……。
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ただ、車重がかかったときにバネは縮むわけですよね。だからそれ以上にプリロードをかけてバネを縮めていない限りは、けっきょく車高は変わらないことになる。
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だとしたら、車高も変わってないのに、乗り心地だけ悪化していて最悪ですね。
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それだけでは済まない。そのようにすると、ショックの伸び側のストロークがなくなってしまうのが一番問題なんですよ。
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ムム。
どういうことですか? -
ショックって本来は伸び縮みするもの。なのに全長調整を縮め過ぎると、走行中はショックが伸びたままのような状態になってしまうんです。
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走行中に沈み込むぶんのストロークはあっても、上に戻るストロークがない。だから伸びきってしまって、ゴンゴン鳴る。
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ゴンゴン?
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伸びきるということは、鉄と鉄が当たる音。ゴンゴンとかガンガンとか、ひどい異音がしますよ。
車高調だけだとこんな感じで止まる
バネとショックが別体
ショックの全長が短くなると、伸び側の余力は減る
ショックが底付きしている、というよくある誤解
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ショックがゴンゴン、ガンガンって聞くと、ショックが底付きしているイメージですが……、
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いや、ショックの底付きは、ガンガンは鳴らないんですよ。なぜならバンプラバーが入っているから。ドンドンとかボンボンという、鈍い感触になる。
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ああ、なるほど。鉄×鉄じゃなくて、鉄×ゴム(ウレタン製など)の音なんですね。
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そうです。基本的には、ショックは底付きしないようになっているので。
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まあ、そのバンプタッチが、事実上の底付きということですね。
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でもショックを無理矢理縮めた場合は、底付きではなく伸びきっていて、引っ張られてガンガンなっているんです。ここを誤解している人がけっこう多い。
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底付きだと思っている?
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そうなんです。車高を落としている人から、「ショックがガンガン底付きするんですよ〜」と、悩み相談をよく受けるんですが……、
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フムフム。
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ガンガンって聞いた瞬間に、もう疑わしい話です。
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それが、よくある誤解。
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鉄と鉄が当たるような音なら、その異音の原因は底付きではないのです。
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つまり、ガンガンという異音ならば……、
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それは逆にショックが短すぎて、引っ張られているほうじゃないんですか? という話になる。
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なるほどねぇ。
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そう指摘すると「言われてみれば、路面で沈んだ時には鳴らないけど、バウンドして戻るときに鳴るような気がする!」という人も出てきます。
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その場合は、完全にショック伸びきりが原因ってことですね。
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そうです。それならゴンゴン、ガンガン。スゴイ音がしますので。
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……ショックが壊れそう。
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そのまま乗っていたら、早い段階で壊れるでしょうね。
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ショックの伸びきりか〜。底付きのほうが圧倒的に有名だけど、逆にも注意が必要だったんですね。
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リアショックの全長調整を縮め過ぎている人は、特に軽自動車に多い。
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思ったより車高が落ちないから、ですね。
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だからリアショックからゴンゴン、ガンガン鳴っている人は、むしろショックの全長調整を伸ばす方向に正解があります。
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ショックがそもそも固定だったら、こういう誤解も生まれない気がするんだけどなぁ。
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まあね。バネとショックが別体の足まわりは、本当はそのほうが分かりやすいとは思います。
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でも今どきは、リアショックにも、全長調整機能も持たせてあるのが普通ですよね。
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やはりそこは、車高を低く落としたい人と、そこまでは落とさない人とに分かれるので、それぞれに応じたショックの長さに調整できたほうがいいわけですよ。
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そっか。車高を変えるためのショック調整ではなくて、「車高に合わせたショックの調整」ということですよね。
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そうです。正しくは、そのためのリアショックの全長調整機能です。
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リアショックをどういう風にセッティングしたらいいのかは、「ショックアブソーバー調整方法、リアは手強い」を参照してください!
ショックの中にバンプラバー(緩衝剤)が入っている
ショックのカバーの中にバンプラバーが入っていて、ピストンの底付きを防いでいる。
DIY Laboアドバイザー:氏家淳哉
リアアクスルキットで有名なJ-LINE(Jライン)。足まわり加工に長けたプロショップでもあるので、直接クルマを持ち込めば様々なワンオフ加工も依頼できる。深い知識・高い溶接技術は比類ない。●J-LINE TEL 022-367-7534 住所:宮城県多賀城市町前1-1-13
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