「調整式」ではない「固定式」アームのメリットは、理解していない人が多い!?
アームの調整式と固定式のよくある誤解。「調整できないより、できた方がいい」イメージが圧倒的に強いのだが、そういう問題ではない。固定式アームのメリットがわかると、アームの選び方も変わる。
なぜJラインはネジ調整式にしないのか? 固定式のアームにこだわる理由
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社外アームに交換するというと「調整式」のイメージが強いですが、実は「固定式」もあります。Jラインのアルファード用アッパーアームは、まさにその例。
●レポーター:イルミちゃん
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5種類が用意されていて、それぞれ、下のようにキャンバー角が変化し、ホイールの頂点が内側に倒れる。
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アッパーアームを短くすることで、キャンバー角が付く。この仕組みは「調整式」も「固定式」も同じ……それなら「調整式」にしておけば、好きな角度に調整できるじゃないですか?
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そうですね。
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
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「固定式」だと調整ができないし、5種類も用意したら、在庫管理も大変では?
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妙な心配もしてくれるんですね。ちなみに、アームの耐圧試験(※)なども1本ずつ受けてクリアしないといけないので、その面でも莫大なコストがかかります。
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そこまでして「固定式」にこだわるJライン。謎過ぎる。
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固定式と調整式を比べたときに、「固定式のほうが格下」みたいなイメージを持っているのだとしたら、それは違いますよ?
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そう? 「調整できない固定式」より「調整できる調整式」のほうが、上位版みたいなイメージなんですけど。
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そう思っている人は多いですね。だからよく、「え? Jラインは固定式なんですか? なんで???」って驚かれます。
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ウンウン。
その疑問は分かる。 -
どちらも一長一短あるので、自分の使い方に合うのはどちらか、という話です。
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あえて固定式を採用するメリットは?
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まずゆるむ心配がないですよね。アーム交換後、基本的にはメンテナンスフリーでいい。
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そっか!
もともと「ゆるむ箇所」がないんだ。 -
アーム類にはねじられるような力もかかるので、ネジ式で自由に調整できるようにすると、どうしても緩んでくる可能性があります。
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ふむふむ。
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そのへんを理解した上で、定期的に増し締めなどのチェックを行うならいいんですが、付けたら付けっぱなし、という人が多い。
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……まあ、分かる気がします。
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最初に付けるときに調整して、その後は触らない。ほとんどの人がそうだと思うんですよ。
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よし!
今日は雨が降るからキャンバー角を起こそうっと。 -
……そんな人いないですよね。
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間違いない。
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サーキットを走る人がミリ単位でアライメントにこだわるような話はさておき、街乗りのドレスアップカーでは、調整するのは付けるときだけ、という人が多いです。
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となると、そもそも「調整式」である必要性があるのか、ということ?
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そうですね。ず~っと放置したままで動かさないと、ネジ部分が固着して回らなくなりますし。
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けっきょく固定式になっていたりして!?
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足回りのアーム類は水にもさらされるから、錆びて固着しやすい。ステンレスなら別ですが、基本的には鉄で作りますから。
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なら、ステンレスで作ればいいのに。
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ステンレスは硬いから、折れやすいのがデメリット。ですから足回りのアームで使うのは、心配な面がある。
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それでアームは鉄製なんだ。
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鉄のねばりの良さ、というがポイントですね。ただし、鉄は錆びるのがデメリット。
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車高調が固着して動かなくなるのと、同じような話ですなぁ。
J-LINEアッパーアームを付けた時のキャンバー角の変化
オフセット量 | キャンバー角 |
---|---|
0(ゼロ) | 3.5度位 |
−5 | 4.5度位 |
−10 | 6度位 |
−15 | 7度位 |
−20 | 8度位 |
※30アルファード╱ヴェルファイアでの、ナチュラルキャンバー角(車高はリムツラとして)も含んだトータルでのキャンバー角。 |
※オフセット量はホイール頂点のツラ具合の変化を示す。20インチホイール・ツライチ状態からの測定値。 |
✔ 問い合わせ先:〈J-LINE〉TEL 022-367-7534╱またはお問い合わせフォームから。
✔ J-LINEのアッパーアームは、国の検査機関VIA(日本車輌検査協会)で耐圧試験等を受け、精度や安全性について認定登録されている。それゆえに、必要な書類を揃えることで、記載変更の手続きを取れる。
※詳しくは、「アーム交換は車検に通るのか? 専門家に取材」参照。
調整式アームはセッティングできてはじめて完成するもの
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固定式のメリットを言えば、「分かりやすさ」にあると思います。
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なんのことでしょうか?
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「これを付ければ、結果はこうなるよ」というのが分かっている固定式のほうが、ショップも付けやすい面があると思うんですよ。
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……ほう。
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調整式は、自由に調整できるがゆえに「セッティングまで終わってはじめて完成」ですよね?
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むむむ。
そう言われてみればそうか。 -
足回りに詳しいプロショップであれば、自由自在に調整できるアームを組み合わせて、セッティングを煮詰めることもできるでしょうけど……
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どこでもできるわけではない。
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そうですね。一般的には「調整式だから自由にセッティングしてください」と言われるよりも、「固定式だから取り付けたらこうなります」のほうが分かりやすい面がある。
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そういうふうに考えたことなかったけど、それは言えてるなぁ。
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「こうなります」の結果が何パターンかあって、その中で選べれば十分ではないか。それがJラインの考えです。
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それなら、あとは取り付けるだけでいい。
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正しく取り付けさえできれば、誰が付けても結果が同じになる。これは固定式の大きなメリットです。
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ショップに取り付けを依頼するユーザー側からしても、安心感がありますね。
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いっぽう調整式は、問題があったときに「アームが悪いのか」「調整の仕方が悪いのか」ユーザーには判断できない面もあるし。
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ウーム。もしもそこで責任の押し付け合いが発生すると、一番損するのはユーザーですもんね。
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そういう意味で、固定式にはショップにとってもユーザーにとっても安心感があります。
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「固定式は格下」なんていうのは、トンデモナイ誤認識でした。
Jラインにもカム式の調整式アッパーアームはある
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なお、JラインでもC-HRや50プリウス用のアッパーアームは調整式を採用していますが、これはゆるむ心配のない「カム式」です。
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おや? そんな機構があるなら、アルファード用もそうすればいいのでは?
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アルファードのアッパーアームは、構造的に偏心カム式を採用できないんですよ。
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アルファードは、アッパーアームがつながるフレーム側もナックル側もブッシュなんです。ブッシュだと、カム式にはできない。
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そういう事情なのか。
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この場合、調整式にしようと思ったらネジ式(ターンバックル式)にするしかないのです。
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だから、Jラインは固定式を取った、ということですね~。納得!
C-HR用のアッパーアーム
30アルファード用のアッパーアーム
DIY Laboアドバイザー:氏家淳哉
リアアクスルキットで有名なJ-LINE(Jライン)。足まわり加工に長けたプロショップでもあるので、直接クルマを持ち込めば様々なワンオフ加工も依頼できる。深い知識・高い溶接技術は比類ない。●J-LINE TEL 022-367-7534 住所:宮城県多賀城市町前1-1-13
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