車検の知識
引っ張りタイヤは車検に通る?
引っ張りタイヤと車検の話。いかにも車検NGっぽいのだが、意外なことに引っ張りタイヤを明確に禁ずる法律はない。では車検OKかというと、別の問題を指摘されるケースがある。気になる点が多いので、車検の専門家に取材した。
引っ張りタイヤを明確に禁止する法律はないが…
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今日は、気になっている人も多いテーマです。ズバリ!「引っ張りタイヤは車検に通るのか?」
●レポーター:イルミちゃん
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う〜ん。
そこはね、微妙なところなんですよ。●アドバイザー:TIC 越川研究員
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ビミョウとは?
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皆さんが気にするのは、「どこまで引っ張って良いのか!?」ということだと思うんですけど、これには明確な基準はない。
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ということは、少なくとも「引っ張りタイヤはNG」というルールもない?
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そうですね。引っ張りタイヤって、タイヤよりリムが出てしまうわけですが、「タイヤよりホイールが突出していたらダメ」みたいなルールはないです。
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ならば! 引っ張りタイヤは車検に通るってことになりますね?
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ただ、タイヤに関する別の問題を指摘される可能性があります。
本質的な問題点はロードインデックスが不足すること
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ドレスアップで引っ張りタイヤに使われるタイヤは、扁平率が低い、薄いタイヤが多いですよね。
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ですね。薄いタイヤのほうが車高を落とせるし、ハンドル切れるし。
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そういう履き方をして問題になるのは、引っ張りタイヤというよりロードインデックスのほうなんです。
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引っ張りタイヤの場合、マッチングとして、ロードインデックスが車の重量に対して満たない組み合わせになっているものが多い、というのが現実だと思います。
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例えばアルファードクラスのミニバンだと、前軸重(※フロント両輪にかかる重さ)が1200キロとかある。それに対して、1個あたり530キロの重量しか支えられないタイヤだとしたら……、
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前輪2本分で、1060キロまでしか支えられませんね。
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そうなると、そのタイヤは重量的にもたない、ということでNGになるのです。
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そういうタイヤが引っ張りタイヤに使われているケースが多い、ということか。
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この話は「引っ張る、引っ張らない以前の問題」なんですけどね。
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確かにそうですね。
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20インチを履くアルファードが、30扁平とか35扁平の薄いタイヤを使っていたりしますが、事実上アルファードの重量を支えられる、ロードインデックスを満たすタイヤがない。
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じゃあ、60扁平で引っ張るか。
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……という話は、現実味がないですよね。
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引っ張りタイヤの問題というより、焦点としてはロードインデックスの問題になってくるんですね〜。
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車が軽い軽自動車等なら、求められるロードインデックスも低くなるから、問題ないケースが多そうですが、反対にアルファードのような重量級のミニバンは、このあたりが問題になりやすい。
ロードインデックスは、タイヤサイズに続いて表記されている。
✔ ロードインデックスとは?
●「荷重指数」のことで、そのタイヤが耐えられる重量(最大負荷能力)を示した数値。●タイヤにかかる重量に対して、負荷能力が足りていないと、セパレーション等のタイヤ損傷につながる可能性が高くなる。
純正のロードインデックスを下回ったらNG?
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引っ張りタイヤに関する規定がなくても、ロードインデックスに関しての規定ならあるってことですね?
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それはありますね。
タイヤにはルールがあります。 -
……ということは、純正タイヤのロードインデックスを下回る引っ張りタイヤは、全部NG?
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いや、乗用車についてはそういうことではないです。貨物車は、指定されているタイヤサイズ以下の重量しか支えられないタイヤはNGと思っておいたほうがいいですが。
(※)正確に言うと、貨物でも「積載量を含めた総重量」に対する軸重を支えられれば純正以下のロードインデックスでも問題ないはずだが、積載量も含めた総重量の前軸・後軸にかかる軸重は計算しないとわからないため、一般的には難しい話だ。 -
そうなんだ。
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貨物車の場合は、「取り得る最大限を取らなければならない」というルールがあるんです。やはり過積載の問題などがあるから、厳しいんですよ。
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そうなんですね。ドレスアップカーには、関係ない話ですが。
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いや、そんなことはなくて、例えばハイエースは貨物じゃないですか。
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ああッ!
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ハイエースのカスタムだとすると、指定タイヤの荷重指数を下回るタイヤを履くことは、貨物のルールからするとNGになります。
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なるほど。
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貨物の場合は、前軸重・後軸重それぞれの数字設定が最初から存在しています。それにともなって指定のタイヤが決まっているから、そこでも一目瞭然。「それ以下はダメ」という線引きがハッキリしています。
純正タイヤのロードインデックスは、サイズ表記と共に確認できる。
乗用車は、軸重を計算しないと、白黒付けられない!?
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貨物の厳格なルールはわかりましたけど、乗用車の場合はどうなんですか?
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乗用車の場合は、「総重量」に対してタイヤの負荷能力が足りていればいいということになってきますが……、
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え〜っと、総重量ということは、乗る人間の重さも入っている。
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当然そうです。乗員はひとり55キロ計算ですよね。ただ、ここでひとつやっかいなのは、乗用車の場合は軸重の設定がない。
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軸重っていうのは、フロントならフロントにかかる重みのことですね。
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ハイ。「車両重量」は車検証にも記載されていますが、自分の車の「軸重」って、わからないじゃないですか。
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総重量を、4で割り算すれば1輪あたりにかかる重量が出ますよね? 4輪で支えているから。
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そんな単純な話じゃないんですよ。前後の重量配分が違うし、人が乗った場合は、シートの位置とかによっても重量バランスが変わりますよね。
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ムムム。
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アルファードに8人乗った例。定員の重さは55キロ×8=440キロの計算ですが、それが前に何%、後ろに何%なのかは、シートの前後位置(オフセット量)でも変化するから、計算しないと分からない。
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ええ〜!! そんなこと言い出したら、フロントに何キロの負荷能力のタイヤを履いたらいいかなんて、誰もわかりませんよ?
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そうなんですよね。でも前軸重、後軸重というのは、計算してみないと出ないんですよ、実は。
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だから、「継続車検」でそこまで見るのは難しいという現実問題がある。でも厳密に言えば、その計算をやった上で、適否を判断することになる。
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……てことは、少なくとも純正のロードインデックスを下回ったら全部アウト、とも言えない。
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それは貨物の話です。乗用車の場合は、軸重の計算をしてみないと分からない。
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これぞまさしくグレーゾーンですね。
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でも本来の線引きはひとつなので、ちゃんと計算したら、白黒ハッキリする問題ではあるんです。でも1台にかけられる時間の少ない継続車検で、そこまでチェックするのは無理があります。
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なるほどね〜。
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例えば「総重量」どころか、そもそも「車両重量」さえ支えられない極端なロードインデックス不足なら、継続車検でも指摘される可能性はあるでしょうけどね。
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ちなみに継続車検でなくて、新規の車検だったら、そこまで厳密に見ている、ということでしょうか?
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もちろんです。構造変更検査や新規の車検のときは、タイヤサイズは書かないといけないし、重量に耐えるタイヤかどうかは必ず見られます。タイヤサイズから計算して、重量的にもたないような履き方はNGとなります。
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じゃあ、継続車検ではたまたま通ってしまっていたけど、構造変更検査を受ける段階で指摘されるとか……
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それは、あり得る話ですね。
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それ、まさしくやぶ蛇!
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それは本来は当然のことなんで、やぶ蛇とかそういう話ではありません。
DIY Laboアドバイザー:越川 靖
公認車検専門店「TIC」代表。公認申請歴26年のベテラン。「車好きが堂々とカスタムカー・改造車に乗れるように」と使命感を持つ。自身も大の車好き。車検完璧対応のワンオフマフラーを自ら溶接する、職人系の公認車検屋。●TIC(http://www.tic-group.jp/index.html)
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