ツライチコラム
ツライチ狙いのフェンダー爪折り工学
ツライチを狙う上で、フェンダーの「爪折り」は不可欠。そこでツメ折り専用の工具・ツメ折り機について解説。構造上「折り」に向かない車種は「切る」「削る」という手段も。DIYでやるにせよプロに頼むにせよ、ツライチの知識としてはいれておきたい・爪折り工学。
ツメ折り機で折り曲げる場合
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前回の「ツライチかツラウチか」の記事でもちょっと触れましたが、ツライチを狙うとすれば問題になってくるのがココ。
●レポーター:イルミちゃん
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ツライチに近づくほどフェンダー折り返しのツメに干渉しやすくなるので、ツライチ狙いならフェンダーの爪折りが必要です。
●アドバイザー:スパイス 佐藤研究員
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爪折りって言っても、どうやって折り曲げる気ですか? 相手は鉄板ですよ?
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「爪折り機」を使います。
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こんな専用マシンがあったとは。しかしツメ折り機なんて、まさかDIYユーザーは持ってませんよね?
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いや、たまに、DIYでツメ折り機を使って挑戦する人もいるんですよ。
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それはスゴイ(汗)。
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ただしツメ折り機を使うと、やり方によっては塗装が割れるリスクがあります。
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……え? ツメ折り専用工具なのに…
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鉄板を曲げるわけですから、普通にやったら塗装は割れますよね。
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じゃあどうするんですか?
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塗装が割れないようにヒートガンで表面を温めて塗膜を柔らかくしてから、ツメ折り機で裏側から慎重に押してツメを曲げていくんです。
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先にヒートガンで塗装をあぶらないといけないんだ!
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やり過ぎるとそれはそれで塗装が焼けてしまうので注意が必要ですが、温めなかったら一瞬で塗装が割れますので。
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そんなに簡単に割れるもんですかね?
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割れます。パキって。そして時が止まる(゜д゜)
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塗装が割れたらどうなるんですか?
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フェンダー周りの再塗装が必要になりますから、そうなったら3万円〜それ以上の費用がかかるでしょうね。事故車でパテが入っていたりとすると、なおさら折り曲げた時に割れやすいですよ。
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なるほど。ツメ折り機を使えばお手軽、というレベルの作業ではなさそうですね。
ツメ折りのために生まれた専用マシーン
ツメ折り機で曲げる方法とコツ
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ツメ折り機で折り曲げるときは、時間はけっこうかかるのを覚悟しましょう。急いでやると塗装が割れやすいので、「ゆっくり少しずつ折り曲げるのがコツ」なんです。
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どうやって使うんですかねこの機械。想像できないんですけど。
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まずジャッキアップしてホイールを外して、ハブに固定するんですよ。
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ハブに固定することで、ハブを中心にローラーが弧を描くように動くしくみです。あとはこのローラーで手前方向に押しながら、ツメを折り曲げていきます。
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このローラーで奥から手前に押し出すわけですね。
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そうです。ヒートガンで塗装を温めたら冷める前に折りたいので、先にツメ折り機をセットアップしておいてからヒートガンで温めます。
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この温め具合というのは、どんな感じですか。
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「鉄板を手で触れる程度」の温度が目安です。それ以上は、塗装が焼けるリスクがありますので。
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先にアーチ全周をあぶってから、ローラーを動かすんですか?
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いや、そのやり方は冷めてしまうのでリスキーです。熱いうちに曲げるためには、ちょっとずつ進めるのがコツ。
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なるほど。
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まず頂点あたりから折り始めるんですが、折る付近だけ温めて、押して折り曲げて、また次のところ温めて…という具合に進めていきます。
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けっこう時間がかかりそう〜。ホントにちょっとずつだ。
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写真は30プリウスですが、片側で1時間弱ぐらいの時間はかけてますよ。
セットアップ完了
ヒートガンで塗装を温める
アーチの表面側だけでなく、折り返しているツメ部分も温める。
最初に温めた頂点付近だけを、ローラーで押して折り曲げる。
ツメ切り落とすという方法もある
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ツメの処理については「切る」「削る」という方法もあります。
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折り曲げるんじゃなくて、完全に切り落とすわけですね。
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そうです。エアソーなどで切ります。切り落とすのが一番薄くはなります。
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まあ、折り曲げたら厚みは残りますもんね。
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ただし切りすぎると折り返しの引っかかりがなくなって、インナーとアウターの鉄板が剥離してしまう。だからそこまでは切れません。
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つまり少し厚みが残るのは同じなんですね。では「削る」場合は?
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ベルトサンダーなどで削り込みます。
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「切る」と「削る」は似てますが、違いは?
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少しだけタイヤが当たるという状況なら削ってかわす、という感じですね。それでかわせるなら、全部切り落とすことはないわけです。そのほうが強度も残せる。
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ところでけっきょく「折り曲げ」と、「切ったり削ったりする」のはどっちがいいんでしょうか?
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それは車種によりますね。フェンダー折り返しのツメの部分がもともと少ない車だと、曲げることによってアウターとインナーの鉄板が剥離してしまうので、折り曲げないほうがいいんです。こういう車は削り込むしかない。
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折り曲げるなら、それなりに幅が必要なわけですね。
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それと、一部のビッグセダン系……たとえばクラウンなどは、フェンダーにモールが付いていて、その固定のネジ穴がツメの部分に付いています。
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つまりツメにモールが固定されているわけですね。
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そうです。モールは当然外すことになりますが、このタイプをツメ折り機で曲げると、ネジ穴の部分だけ押し出す力が伝わらないので、表面に痕が付いてしまうんです。こういう車も削るしかない。
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折り曲げてかわせるならそれに越したことはないけれど、そうはできない状況なら、切ったり削ったりするわけですね。
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ただ作業的に一番時間がかかるのは「折り曲げ」なので、工賃でいうと「折り曲げ」のほうが高くつく(スパイスの場合で片側8000円)。「切る・削る」なら時間もかからず安いです。
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なるほどぉ。いろんな意味で一長一短ですねー。
DIY Laboアドバイザー:佐藤峻一
元カスタムガレージスパイス代表。足回りに強く、得意技は勝負ツライチだが、実用性重視のセッティングも高いレベルで実現。ドレスアップ全般に明るく、不思議な包容力があってDIYユーザーにも人気。
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