コーキング剤を車で使うときの注意点
固定や防水に便利なコーキング剤。車のDIYでもよく使われるアイテムだが、乾燥の過程で発生するオキシムガスの問題など、取り扱い要注意な面がある。そこでコーキングの使用上の注意点を、加工のプロに取材した。
コーキング剤のオキシムガスは要注意!
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車の加工でもよく使われる、コーキング剤に関しての注意点をお話します。
●アドバイザー:球屋 森田研究員
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コーキングは、球屋のヘッドライト加工でもよく登場しますよね〜。
●レポーター:イルミちゃん
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ヘッドライト加工で、内部にLED基板やアクリルを入れて固定するときに重宝します。
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特に固定に関しては、だいたいコーキングで留めるので、ほとんど接着剤代わりのように使っていますね。
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では、今日はコーキング講習ということで。
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まずコーキング剤の種類の話。脱オキシムタイプと脱アルコールタイプの、大きく2つに分かれます。
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いきなりマニアックですね。
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一般的に使われているのは、脱オキシムだったりするんですけどね。
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脱オキシムって、なんのことですか???
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コーキングが乾燥する過程で、オキシムガスを発生させるっていうことです。
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では、脱アルコールタイプはアルコールが発生するということ?
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そうですね。で、コーキング剤を使う量にもよりますが、脱オキシムタイプには注意点があって、オキシムガスが樹脂にダメージを与えてしまうことがあるんです。
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それって、例えば車のヘッドライト加工で使うと……?
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ヘッドライトでは、レンズの樹脂へのダメージになる。
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どうなるんだろ?
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レンズが曇ったり、細かいヒビ割れが起こったりする原因になります。
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あわわ。
もう取り返しが付かない! -
そうなんです。レンズの内側は、磨いたりすることもできないので。
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コーキングを使うのが恐くなりますね……。
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でも、これって、乾燥工程で発生するガスの仕業なんですよね。
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フムフム。
オキシムガスね。 -
脱アルコールタイプなら、オキシムガスは発生しないんですが……、
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それなら、脱アルコールタイプを使えばいいんだ!
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でも、脱アルコールタイプは手に入れくいんです。値段も高い。
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そっか。
一般的なのは、オキシムのほうなんですもんね。 -
それに、今度はアルコールが発生することで別の弊害が生まれる可能性もありますよね。
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確かにヘッドライト内でアルコールが充満したら、それはそれで何か問題が起こっても不思議はなさそう。
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だからコーキングの使い方で一番ダメなのは、コーキングをして、すぐにヘッドライトを閉じてしまうことです。
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その点は、どっちを使うにしても同じ?
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ですね。
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急いでいる時には、コーキング剤は使わないほうがいいってことか。
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そうとも言えますけど、根本的に言えばヘッドライト加工って急いでやることじゃないんで。
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それもそうですね。
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完全に硬化してしまえば、もうガスは発生しない。ヘッドライトを殻閉じする前に、しっかり時間を置くことが大切なんです。
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じゃあ、オキシム君が悪いという話ではなくて……
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焦って閉めてはダメ、ということですね。
部品の固定に
切って開けたライトの防水に
熱分解できないライトやテールの殻閉じ場面。
アクリル固定にコーキングを使い、乾燥させているところ。
コーキング剤の注意書きにも、「メチルエチルケトオキシムが発生します」等と書かれている。
硬化するまで閉じなければいい
コーキング剤に代わるモノはないのか?
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ガスが発生しなくて、何かコーキングの代わりになるようなモノはないのでしょうか?
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例えば、速乾性のパテなどを固定で使ったほうが安全で早い、という見方もあるんですけど……
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ほほう。
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車のヘッドライトのインナーの素材(ABS樹脂など)に対して、パテでは相性的にしっかり付きません。
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ちょっとほじくったらパリって剥がれるし、一部が剥がれたら全部バリっと取れてしまうので……。
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あらま。
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特に車のパーツは、常に振動にさらされている状態です。
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確かに。
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そういう意味で、僕らは、あまりにガチガチに固まるようなものは、逆に使わないんです。
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ある程度、柔軟性があったほうがいいんですね。
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…という意味でコーキングは、「取ろうと思えば取れるけど、取ろうとしないと取れない強度」がちょうど良い。
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そういえば、コーキングで固定したモノを取る時はどうするんですか?
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カッターの刃を入れて、切ったりすれば取れます。
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なるほどね。
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ボンドなども、使い方にもよりますが、空気中の水分などによって黄色っぽく変色したりするので。
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それでは、アクリルの固定とか密着には使えませんねぇ。
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これまでいろいろ試しましたが、現時点では、球屋としてはコーキングに代わるもっと良い固定方法・接着方法は見つかっていません。
インナーは樹脂製
球屋ではアクリル(キャスト)の固定にクリアのコーキングを使う。
コーキングを使わないほうがいい場面とは?
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コーキング剤の使い方で、あまり良くないケースも解説します。
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聞いておきたいです、ソレ。
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例えば、ヘッドライト加工が終わって、最後にハウジングに穴を開けて、光モノの配線を出す場面。
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この穴を防水する目的でコーキング剤を打つ人が意外と多いんですが、これは剥がれてしまいます。
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ウ〜ム。
配線の穴、防水したいところではありますが。 -
しかし配線通し部分ですから、ヘッドライト取り付け時に、多少配線が引っ張られたりすることも考えられる。
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あー。
その時に取れてしまうんですね。 -
まあ、最初からくっついていない、と言ったほうがいいですね。しっかり足付けすればまだしも。
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なるほどね。
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なおこの場所は、球屋ではブチルゴムを使っています。
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逆に、ヘッドライトのような灯体内部での固定などにブチルゴムは使わないほうがいいです。
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それはなぜ?
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熱で柔らかくなってしまうからですよ。対して、コーキングは熱に強いです。
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そういう意味でも、ヘッドライト内部に向いているのはコーキングなんだ。
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アクリルの脱落などの問題も、球屋では過去に起こっていません。特性を理解して正しく使えば、特別高級なコーキング剤を使う必要もありませんよ。
コーキング剤の色は使い分けよう
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コーキング剤にはクリア、グレー、ライトグレー、黒などの色の違いもあります。
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どの色がいいんですか?
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全部、使い分けています。
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ええ〜!?
グレーとライトグレーも両方買うの? -
例えばテールランプなどは、超音波カッターで切らないと殻割りできない車種がほとんどですが、灯体の裏の色とか、車種によってビミョウに違うので。
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近い色を選んで、防水するんですね。
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表からは見えない場所だったとしても、加工した感を減らすためには色が近いほうがいいですよね。
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プロは細かいコトをやっているんだな〜。
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あるいは、固定箇所を陰と同化させて見えにくくするために、「黒いコーキング剤」を使ったりもしますよ。
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そのあたりの実践的な使い方は、「LED加工のプロが明かす! アクリルヘッドライト加工方法」連載が参考になりますよ。
ハリアーやC-HRのようにヘッドライトでも、切らないと殻割りできないケースもある。
黒いコーキング剤でイカリングを固定しつつ配線を隠している。
DIY Laboアドバイザー:森田広樹
LED加工専門店・球屋代表。アクリルづかいを筆頭に、最先端のライト加工技の探求者。実際にお客さんの10台中9台はアクリル加工をする、というほどのエキスパートだ。派手さよりも「完成度と質感」を重視。デザイン性の高さでも全国屈指。
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