フェンダーの爪(耳)を切る前に、知っておくべきこと
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フェンダーの爪(耳)とは、フェンダーアーチのフチの部分。ツライチをシビアに狙うと、ホイールとの干渉が発生するポイントだ。そこで爪折り(耳折り)や爪切り(耳切り)でかわす手があるが、その方法には代償もある。
「爪を切る」という常識はそろそろ変わるかも!?
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今日は、フェンダーの爪切りをする前に知っておいて欲しいことを、お話したいと思います。
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
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あ♪
なにか良い切り方を、教えてくれるのでしょうか。●レポーター:イルミちゃん
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そうではなくて、言いたいのは、「今の世の中、そんなに簡単に爪切りするもんじゃないですよ」という話です。
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……ええッ!?
何を言い出すんですか、氏家研究員! -
これは、前からどうしても、問題提起しておきたかったのです。
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でも爪切りしなかったら、ツライチホイールがフェンダーに当たってしまいますよね? そんなの常識でしょう!?
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まあ、本当にツラツラまで持っていくスタイルが、オーナーさん自身のコダワリで、そのために爪切りが必要になるケースなら、もちろん切るしか無い。J-LINEでも切る時は切ります。
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その言い方だと、なんだか「基本姿勢としては切らない」と言っているように聞こえますけれど?
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切らないですね。基本的には今の車で、爪切りはオススメしないです。お客さんを長い時間かけて説得することも多いですよ。
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……ど、どういう話なんでしょうか?
✔ おさらい
フェンダーの爪(耳)というのは、フェンダーアーチのフチの部分の鉄板が、内側方向に折り返されている部分のこと。
●そのため、爪を切り落としてしまうのが「爪切り」「耳切り」と呼ばれる処理方法。ツライチとセットで行われるケースが多い。
昔と今では異なる「フェンダーの爪」事情
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ホイールをツライチにするために、フェンダーの折り返しの爪(耳とも呼ばれる)を切る……という行為は、車業界では昔から当たり前のように行われてきています。
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ツライチは日本の文化ですから。
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しかし、今の時代に、安易に爪切りする手法はちょっと……という感覚も、本当はもっと必要だと思います。
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その理由はなんですか?
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まず、今の車のフェンダーのツメは、構造的にも「折れない」「切れない」ものに変わってきています。
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それって昔の車のツメとどう違うんでしょう?
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昔のフェンダーは、鉄板だけで構成されていたんですね。フェンダーのインナーパネルとアウターパネル、2枚の鉄板を重ねて折り返し、そこをスポット溶接してくっつけていました。
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つまり、爪の部分でスポット溶接していたわけですね。
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今は車は、スポット溶接ではなく、アウターパネルとインナーパネルが接着剤のようなものでくっついている。で、ツメの末端部(先端)はコーキングされて、水が入らないように塞がれています。
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溶接ではなく、接着剤の貼り合わせなんですね。
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溶接タイプはほとんどなくなっているようで、最近はすっかり見なくなりました。だから、爪としての折り返し部分は昔に比べるとちょっとしかありません。
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ふむふむ。
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で、その接着されているツメの場合、まず折り曲げはできない。
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それはなぜ?
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折り曲げるには、ツメの幅が短すぎるから。
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じゃあ、やっぱり切るしかないのでは?
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そういう展開になるんですが、切ると末端部のコーキングが取れてしまう。まあ、コーキングは処理しなおすとしても、フェンダーがペラペラになってしまうのは避けられません。

30アルファードのリアフェンダーの爪。
爪を切るのは、もったいない!?
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「フェンダーの爪を切らないと、(このサイズの)ホイールは入らないと言われたから」という事情で爪を切っている人は、アルファードあたりの車でもたくさんいます。
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よく耳にする話ですよね。「太いホイールを履くために爪を切る」というのは。
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でも、その割にはタイヤサイズは太めだったりするケースも多い。ワンサイズ細身のタイヤにしておけば、爪を切らなくても入ったのに……とか。
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それはつまり、もう一段引っ張っておけば良かったのに、という話ですね?
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タイヤのマッチングの重要性は明らかですが……でもね、氏家研究員。
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はい。
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タイヤを買った後でそんなこと言われても! もうすでにタイヤを買ってしまった人からしたら、もったいわけですよ。タイヤが!
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まあ……。
大きいサイズのタイヤは高いしね。 -
そうそう。だから、タイヤ&ホイールを買ったあげくに爪に当たったら、そこから一段引っ張ろうは思わないっていうか、やっぱり爪を切るしかないでしょう?
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確かに「爪を切る」なんて、工賃で見れば数千円の話ですからね。
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それに比べると、タイヤは十万単位のお金がかかっていたりするんですから。
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目先の金額比較ならそうなんですけど、タイヤは消耗品です。それに対してフェンダーの爪はボディの一部。……特にリアフェンダーは、切ったら最後、二度ともとには戻せません。
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……ムムム。
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本来は、比較してどっちがいい? というレベルの話ではないと思うんです。
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……言われてみれば。
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「タイヤがもったいない」のが理由で、車体である爪を切るのは、それこそ車がもったいない、とも言えます。

引っ張りタイヤについては別記事参照。
リアフェンダーの爪切りに慎重であるべき理由
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さきほどリアフェンダーを特に擁護する姿勢が見られましたが、フロントとは違う事情があるのでしょうか?
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フロントはまあ、やろうと思えば元に戻せるじゃないですか。フロントフェンダー自体を交換できますから。
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フェンダーを交換してしまえば、爪も元通りになる。
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対してリアフェンダーは、ボディそのものですよね。
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だから、一度切ったら修復は不可能ってことか。
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事故のときにやるような、クォーターパネル交換みたいなレベルの大規模修理をすれば別ですけど、それこそ事故車扱いですよね。
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……ウーム。
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そういう意味では、リアフェンダーは、フロントよりも大事しなくちゃいけない部分だとは思います。
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でも、実際にツライチのために爪を切るのは、リアフェンダーであるケースが多い。
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そうですね。でも新車で買った車に、まずタイヤ&ホイールを履いて、その時点で簡単にツメを切る……という前に、今日の話は考えてほしいかなと思います。



DIY Laboアドバイザー:氏家淳哉
リアアクスルキットで有名なJ-LINE(Jライン)。足まわり加工に長けたプロショップでもあるので、直接クルマを持ち込めば様々なワンオフ加工も依頼できる。深い知識・高い溶接技術は比類ない。●J-LINE TEL 022-367-7534 住所:宮城県多賀城市町前1-1-13