DIYユーザーは知っておきたい、ボルト・ナットの「締めすぎ」リスク
毎日のように車のネジを締めているプロに聞いた、ボルト・ナットのリスクの話。ボルトというと「ゆるみ」が恐いからと、ついつい過度に締めすぎる。そして締めすぎると最終的にどうなるかは、意外と知らない人が多い。
ボルトは締めすぎると「切れる」
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今日はボルト・ナットの基本について解説します。
●アドバイザー:J-LINE 氏家研究員
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DIYで車をいじる人にとっては、ボルトを締める機会は日常茶飯事ですね。
●レポーター:イルミちゃん
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そこでDIYユーザーの皆さんに注意してほしいのが「ボルトの締めすぎ」です。
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それを言うなら、「締め忘れ」とか「締め足りない」のも注意では?
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それはそうなんですけど、例えば「締め忘れ」が恐いのは、誰でも分かることじゃないですか。
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まあね。もし、ホイールナットを締め忘れたら……、
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ホイールが外れてしまいますから、そこは注意深く作業すると思うんですよ。
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ですね。たまに締め忘れた話も耳にしますけども……
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ただ、逆に「外れたら恐い」からと、ボルト(ナット)を締めすぎてもいけない。この点は、意外と分かっていない人も多いのです。
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確かにユルむぐらいなら、強く締めておくほうが無難な気がしますが。
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しかし締めすぎると、ボルトがダメになってしまったり、切れたりするから、それはそれで恐いんですよ。
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ボルトが切れるって大げさな!
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いや、ボルトは締めすぎると切れます。だから、プロの世界では、固着してゆるまないネジは「逆に締め込んで切ってしまう」という技がある位で……。
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なんと。ボルトって、そんな簡単に切れる?
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だから「締めすぎ」も恐いんですよ。意外とね。
ボルトは「伸びる」性質がある
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ボルトには、締め込むことで「伸びる」性質があります。
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ボルトが伸びるってどういうこと?
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にゅーって伸びる。
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……イメージできません。モチが伸びる時みたいな表現ですね。
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ボルトが伸びることで、「戻ろうとする力」が働きます。その力で、対象物を押さえているんですよ。
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実際、どんどん締めていけば、どんどん伸びていくことになります。とくに生鉄のボルトなんて意外と柔らかくて、感触で伸びていくのが分かるほど。
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へぇ〜。
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だから、ボルト・ナットは、締めようと思えばどこまででも締まるんです。
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締まる間は、どんどん締めたくなるような……。
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でも、ボルトが伸びていくってことはネジ山も伸びる。で、ネジ山をダメにしてしまって、次にゆるめるときに噛んでしまう。
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ボルトが噛んで外れなくなる話は、よく聞きますね。
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あるいはボルト自体が切れてしまう。ねじ切ってしまうんですね。
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そう聞くと、ユルいのも恐いけど、確かに締めすぎも恐いですねぇ。
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そういう事情で、ボルトの強度というのは、ボルト自体の固さのことではなくて、「引っ張り強度」で表される。
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どこまで引っ張る力に耐えられるか、という意味ですね。
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そうです。それがボルトの強度。ボルトの話になると、「折れる」「折れない」という心配をする人がいますけれど、折れるのではなく「切れる」んです。
ボルトとナットと対象物の関係
オス型のネジ(雄ねじ)であるボルトが、メス型のネジ(雌ねじ)であるナットに入り込む。対象物の厚みが変わらないなら、締めるほどボルトが伸びることになる。
規定トルクは、太さや強度で変わる
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ボルトには「規定トルク」が決まっていますよね。
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このボルトは、この力で締めてください、っていう数値ですね。
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規定トルクは「これ以上は締めないでね!」という意味の、「上限」みたいなものです。
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なるほど。ところで規定トルクって、ボルトの太さで決まるんですよね?
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太さだけでなく、材質によっても全然変わります。同じM12でも、ボルトの強度は何種類もある。例えばキャンバーボルトを例にすると、純正より細いボルトに交換するわけじゃないですか。
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でも、この部分のボルトはショックのブラケットでナックルアームを挟んでいる部分だから、純正だとかなり太いボルト、強いトルクで締め付けてあります。
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そんなボルトを細くして大丈夫なんだろうか?
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だから、J-LINEのキャンバーボルトは引っ張り強度区分が10.9の高張力ボルトを使っているんですよ。
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こういうボルトなら、細くても強いトルクをかけられる。
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なーるほど。
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でも同じ10.9のキャンバーボルトでも、軽自動車用と大型ミニバン用では太さも全然違いますよね。
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軽自動車、コンパクトカー、小型ミニバン、大型ミニバンと、だんだんボルトも太くなりますね。
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だから、キャンバーボルトも、それぞれの太さによって締め付けトルクが変わる、ということになります。
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そうなんだ〜。
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それぞれの締め付けトルクは、説明書に記載してありますよ。
「10.9」が引っ張り強度を示す。
全てのボルトをトルクレンチで締める必要があるのか?
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では結論としてはやはり、ボルトはトルクレンチを使って締めないとダメってことになりませんか?
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うーん。どうでしょう。
必須……とまでは、言いにくいけど。 -
だって、トルクレンチがなかったら締めすぎるかも知れない、ということでしょ?
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規定トルクが何キロ(ニュートン)ですよ、って言われたときに、「じゃあだいたいこの位の力だな」って分かる人なら、無くても問題はないです。
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あー、そういうことか。
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規定トルクっていうのは、あまり厳密に考えすぎなくても大丈夫です。
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えー!?
なにそれ? -
逆に、本当に厳密に考えるなら、規定トルクなんて、「夏と冬の気温差」や「ネジに油を差しているか差していないか」といった環境でも変わってしまうものなんですよ?
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ほほう。同じ規定トルクで締めても、実際の締まり具合は違う?
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当然そうなりますよね。気温とかの環境まで含めて考えないといけない。自動車の工場みたいにね。
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それは……現実味がない話だ。
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ですよね。だから、実際のネジの締め加減で人間が判断するほうが、適切に近い、という風に言うこともできる。
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なるほど。
一理ある。 -
プロの場合、意見の分かれるところですよね。きちんとトルクレンチを使うショップもあれば、長年の経験で身につけた感覚のほうが信じられる人もいる。
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氏家研究員は後者ですね。
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ハイ。
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でもDIYだと、そこまでの感覚が身についている人は少ないと思われます。プロの人みたいに、毎日ネジを締めているわけではないから。
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確かにね。それなら、トルクレンチを使うのが一番確実とは言えます。でも、道具を盲信しないで、感覚を身につけることも重要ですよ。
設定したトルクで正確に締め付けられるトルクレンチ。
DIY Laboアドバイザー:氏家淳哉
リアアクスルキットで有名なJ-LINE(Jライン)。足まわり加工に長けたプロショップでもあるので、直接クルマを持ち込めば様々なワンオフ加工も依頼できる。深い知識・高い溶接技術は比類ない。●J-LINE TEL 022-367-7534 住所:宮城県多賀城市町前1-1-13
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