車検の知識
「総重量1.1倍以下ルール」における誤解・疑問を専門家に聞く
● DIYラボ読者のみなさまへ
この記事は9月6日の時点でのTICグループの調査と見解に基づいて作成されましたが、「車両総重量1.1倍以下ルール」(10月1日運用開始)における社外ブレーキ(ビッグキャリパー、ビッグローター等)の扱いはその後、解釈をめぐって紛糾。大きな問題となり、最終的な運用方針に関して、10月2日の朝に全国の車検場に伝わるという異例の事態となりました。
結論としては、ブレーキが改造されている車は、いわゆる「車両総重量1.1倍以下ルール」は適用されないことになりました。
「純正ブレーキではない時点で、重量増が認められないのではないか」
「指定部品だから、1.1倍まではOKなのではないか」
というどちらの解釈でもなく、1.1倍すら関係ないということになります(つまり、今まで通り、特に重量は問われない)。
原理原則でいえば、本来重量に関係なく、ブレーキの改造は安全性の確認をしなければならないからです。つまり、ブレーキを改造している車の場合は、重量に関係なく安全性を確認する前提があるのだから、重量で線引きする必要性がない、ということ。
今回「車両総重量1.1倍以下ルール」を適用するにあたり、このブレーキの原理原則が明確化される方向になったということです。ここでいう原理原則としては「ABSが装着されている」「安全性を書面または、その他適切に判断できる方法」で確認すること等が条件になっています。
今回の決定が、今後の継続車検や公認車検で具体的にどう影響するのか、しないのか。現状では不透明な点が多いため、DIYラボではひき続きこの問題を注視し、読者の皆様への情報提供につとめてまいります。
※追記10月2日10月1日から運用開始される「車両総重量1.1倍以下ルール」がネット上に広まる中で、「誤解」や「疑問」も多く見受けられるので、今日は「補習編」をお届け。
ブレーキ改造そのものに対する規制、ではない
-
「車両総重量1.1倍以下ルール」の件がネット上で広まりを見せる中、「誤解」や「疑問」も多く生まれているようです。今日はそのあたりを、車検のプロに聞いていきましょう。
●レポーター:イルミちゃん
-
まず根本的なところを言うと、今回の話は「そもそもブレーキチューン、ブレーキカスタム自体の規制ではない」という点が重要です。
●アドバイザー:TIC 越川研究員
-
ここでもう一度、「総重量1.1倍以下ルール」の要点(↓)をおさらいしておきます。
-
ブレーキの話が重要なのは確かです。しかし、ベースはあくまでも「重量が増えた車に対する規制」です。
-
それは……。
どっちにしても同じことでは? -
いいえ。これを読み違えて「ブレーキ改造に対する規制」という見方をしてしまうと、つじつまが合わなくなって、いろいろなムジュンや疑問が生まれます。
-
と言いますと?
-
例えば、こんな声がありました。
-
あー。なるほど。言いたいことは分かりますよね。改造ブレーキの信頼性を問う話であれば、確かに重量で線引きするのはおかしい。
-
しかし、それは「ブレーキに対する規制」というとらえ方から生まれる誤解なんです。
-
はあ……。
-
今回の話は、あくまでも「カソウ等(改造含む)により車両総重量が増した車の検査の仕方」を示しているルールなんですね。
-
だからDIYラボでは「車両総重量1.1倍以下ルール」(および「車両重量1.1倍以下ルール」)と題してお伝えしているわけですね。
-
「改造で車両重量が増した」時に、このルールが適応されます。そのときにはじめて、ブレーキもからんだ話になる。
-
そのブレーキの話が重要なのは事実ですが。
-
しかし、おおもとは「重量増」に対するルールですから、改造されていても車両重量が増えていない車については、まったくなにも関係ない話なのです。
-
なるほどね。
そういえば、こんな疑問もありました。 -
つまり、OKってことになりますよね?
-
ハイ。これは「ブレーキが換わっていても軽量化してあるからOK」というより、(純正重量より)軽量化した車は、そもそもこの規制には無関係……という考え方が正解ですが。
-
OKもなにも、最初から対象にならない。
-
そうです。「重量が重くなった車の検査基準」に過ぎないのだから、軽量化した車にとってはまったく無関係。そもそも審査される対象ですらない。今までと何も変わりはない、ということです。
-
すなわち、軽量化は有効!
ということですね? -
もちろん結果としては、そういうことになりますね。
車両総重量1.1倍以下ルール
✔ 純正ブレーキ車 | 改造による重量増は、車両総重量の1.1倍以下まで |
---|---|
✔ 改造ブレーキ車 | 改造による重量増は認められない |
※どちらの場合も、上限を超えたときに、制動装置の技術基準等の書類によりその総重量で問題ないか確認が取れればOKだが、証明は簡単なことではない。
■ 疑問〈1〉
「社外ブレーキに交換している場合、そのブレーキでの安全性を問うのであれば、総重量が純正より重くても軽くても同じことでは? なぜ軽量化している車なら問題ない扱いとなるのか?審査事務規定(第4章-20)の中に、「架装等により車両重量が増加した乗用自動車等の審査」という項目が加わった。審査事務規定は公開されている文書。独立行政法人・自動車技術総合機構のHPでも確認できる。
■ 疑問〈2〉
ブレーキが換わっていても、軽量化してある車ならOK?キャンピングカーはどうなってしまうのか?
-
「総重量1.1倍以下」という意味では、キャンピングカーが大変なことになるのでは? という意見がありますが。
-
キャンピングカーには、ほとんど影響はないと思われますよ。
-
それはなぜ?
-
一連の記事の最初にも言いましたが、今回の規制は、「乗用車」として型式指定を受けた車が対象なんです。
-
フムフム。
-
でも、最近は、乗車車ベースのキャンピングカーはほとんど存在しないじゃないですか。例えばハイエースベースのキャンピングカーなら、あくまでも「貨物」です。
-
だからハイエースやトラックベースのキャンピングカーは、そもそも「乗用車」ではないので、「車両総重量1.1倍以下ルール」も無関係な話です。
-
ハイエースは「貨物」なんですね〜。ナルホド。
-
例えばアルファードベースで、屋根をくりぬいて、バンクベッドを付けて……というような改造だとすると、別ですけれど。
-
軽自動車ベースの、軽キャンピングは?
-
それも同じく「貨物ベース」が主流なんですよ。軽自動車でキャンピングカーを製作するときも、バンベースのものがほとんど。
-
そっか。それで今回の規制は、キャンピングカーにはほとんど影響は出ないのか。
-
強いて言うなら、乗用車ベースでポップアップルーフとかバンクベッドが付いた車の場合。もしかすると、1.1倍を超えてしまうのでは……という問題はありますね。
ハイエースは「貨物」の区分
重量の検査のときにガソリンを抜いておくのは有効?
-
実は、こんな手を考えた人がいました。
-
確かにガソリンは何十キロ分にもなりますからね〜。……で、どうでしょうか?
-
……残念ながらダメですね。
-
……やっぱりね。
理由は? -
そもそも車両重量を測る検査のときは、ガソリン満タンが原則です。
-
そうなんだ。
-
乾燥重量ではなく、ガソリン満タンで測る重量が「車両重量」であり、「車両総重量」につながります。
-
では、この手はダメですね。
-
ただし、別の考え方があります。
-
お?
-
100リッターのタンクを、60リッターのタンクに交換したとすると、これは満タン原則の論理で考えると、軽量化につながる話ですね。
-
乗員を降ろす話と近いですね。どんどん降ろす気か……。
-
ただ、燃料タンクを変更したら「車両総重量1.1倍以下ルール」ではなくて、「車両重量1.1倍以下ルール」のほうで説明した、衝突安全基準の問題がでてきますけどね。
-
……それなら、言わなくてよかったんじゃないですかね? タンク交換ネタ。
-
……。
■ 疑問〈3〉
ガソリンが重そうだから、構造変更などで重量を測る検査のとき、ガソリンを抜いていったらいいのではないか?
DIY Laboアドバイザー:越川 靖
公認車検専門店「TIC」代表。公認申請歴26年のベテラン。「車好きが堂々とカスタムカー・改造車に乗れるように」と使命感を持つ。自身も大の車好き。車検完璧対応のワンオフマフラーを自ら溶接する、職人系の公認車検屋。●TIC(http://www.tic-group.jp/index.html)
関連記事